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病院の待ち時間の状況-紹介状の義務化は、大病院の待ち時間を短縮できるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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4――待ち時間の問題に対する対処法
1|待ち時間を短縮する決定的な方策は考えにくい
これまでも、多くの医療関係者や研究者が、待ち時間の問題に対する方策を検討してきた。例えば、次の図表に示すようなものが挙げられる。この中には、実行されて、一定の効果を挙げたものもある。

しかし、既に見たように待ち時間は改善しておらず、待ち時間短縮の決定的な方策は見出されていない。これは、医療の中心である、医師の診察において、診療時間の予測が困難なことが要因と考えられる。医師の診断を助ける医療機器等の性能は向上しているが、最終的には、医療は、医師と患者、即ち人と人の間で行われる。診療の場面では、例えば、患者の病状が通常とは異なっている場合や、簡単には病原が特定できない場合もある。更に、誤診をすれば患者の命に関わる場合もある。このように、医療は流れ作業のようには進められない。医師は、十分な時間をかけて診察を行う必要がある。
2|待ち時間の質の向上により、ある程度、患者の不満を軽減することは可能
次の図表に示すような方策を通じて、待ち時間の質を高めることが考えられる。待ち時間に関する患者の不満の主なものは、自分がどのような待ち位置にいるのかがわからない点である。ICTの活用等により、待ち状況を通知することで、不満の緩和が図られるものと思われる。また、待合環境を整備したり、待合時間を有効活用することで、患者の待たされ感を、軽減することも可能と考えられる。

5――海外における患者の待機問題
患者は、待ち期間中に病状が悪化したり、逆に病気が自然治癒してしまう場合もある。例えば、イギリスでは、総合医による紹介から最長でも18週以内に専門医による診療を受けられるよう、政府が目標を立てている6。目標の達成状況を、地域ごとに毎月捕捉してホームページ上で公表するなどの取り組みを進めた結果、待ち期間の短縮が図られ、患者の満足度は向上している模様である。

5 もちろん、患者の緊急性が高い場合には、救急医療として、日本と同様に優先的に医療が行われる。
6 イギリスでは、待機問題の緩和に向けてウォークインセンターが設置され、24時間体制・予約なしで、受診可能となっている。2013年現在、イングランドでは、135のセンターが総合医主導で、50のセンターが看護師主導で、運営されている。(“Walk-in centre review: final report and recommendations”(Monitor, Feb 2014, www.monitor.gov.uk) による。)
6――大病院外来の紹介状義務化は、待ち時間にどのような影響を与えるか
2016年4月より、この紹介状が義務化される予定である。これにより、外来の機能分化を進め、大病院での専門医療の質を向上させる狙いがある。現在、中央社会保険医療協議会では、具体的な基準が議論されている。例えば、対象の大病院の定義をどうするか。初診と再来の、特別の料金の金額をどの水準にするか。救急医療など、紹介状なしでも特別料金を課されないための要件をどう設けるか。といった点の検討である9。紹介状の義務化により、大病院の外来患者数が減少し、待ち時間が短縮される可能性はある。しかし、医療関係者からは、既に5,000円以上の特別の料金を設定している大病院でさえも、設定前後で外来患者数の顕著な減少は見られなかった、とする指摘もなされている。このように、紹介状の義務化が、待ち時間にどのような影響を与えるか、現時点では、未知数と言える。
7 将来の保険導入を前提としていない療養を指す。2015年現在、特別の療養環境(差額ベッド)など、全部で10種類ある。
8 「療養の範囲の適正化・負担の公平の確保について」(社会保障審議会 医療保険部会,平成26年10月15日,資料1)による。
7――おわりに (私見)
従来、日本ではフリーアクセスが医療の前提となってきた。だが、単に、「いつでも、好きなところで受診可能」とするやり方は、医療現場に混乱をもたらしかねない。2013年の社会保障制度改革国民会議の報告書では、「フリーアクセスを(中略)『必要な時に必要な医療にアクセスできる』という意味に理解し(中略)、この意味でのフリーアクセスを守るためには、緩やかなゲートキーパー機能を備えた『かかりつけ医』の普及は必須(後略)」との見解が示されている。地域包括ケアシステムを進めるためには、かかりつけ医によるプライマリケアと、大病院等での専門医療とに、医療施設の機能分化を進めることが必須である。大病院外来の紹介状の義務化も含めて、病院の機能分化を進め、医療制度全体の効率を高めていく必要があるものと考えられる。
(2015年11月24日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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