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時代変化に追いつけない社会制度-「配偶者控除」と「第三号被保険者」問題

土堤内 昭雄
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そもそも「働く」とは、傍(はた)を楽(らく)にすることと言われており、その行為が収入を伴うかどうかは問わない。しかし、日本では高度経済成長期に「男は仕事、女は家事・育児」という性別役割分業が定着し、収入の伴う労働だけが「仕事」と思われるようになった。その結果、家庭や地域での様々な無償労働が“シャドーワーク”として社会的にあまり評価されてこなかったのではないだろうか。
80年代から90年代にかけては「専業主婦世帯」が多く、「配偶者控除」や「第三号被保険者」制度は、主に専業主婦が担う“シャドーワーク”に対して経済的評価を与えてきたものと理解できる。しかし、現在では固定的な男女の性別役割分業が崩れると同時に、久本氏が定義する「共稼ぎ世帯」が増えるという時代変化の中で、これら制度による新たな課題も生じてきている。
日本は本格的な人口減少時代を迎え、労働力人口の確保が急務だ。少子化に歯止めをかけるとともに女性の就業者をいかに増やすかが求められている。しかし、現在の「配偶者控除」や「第三号被保険者」制度は、主に女性の労働時間や就業機会を制約する大きな要因になっている。実際、女性パート従業者が多く働く小売業や介護業界では、勤務時間の制限・調整が現場に大きな影響を与えている。経団連も企業が専業主婦世帯に支給している「配偶者手当」の見直しを推進するとの方針を固めた。
ある意味これまで主に専業主婦が担ってきた“シャドーワーク”は、GDPに換算されない社会の“含み資産”だ。しかし、少子高齢化や人口減少、単身世帯や共稼ぎ世帯の増加などの日本の人口・世帯構造の変化は、もはや日本社会が“含み資産”に多くを期待することが困難な状況にあることを示唆している。
家族の形態が多様化・流動化し、社会保障をはじめとする社会制度が時代変化に追いつけない今日、伝統的な家族福祉機能に替わり、世帯単位から個人単位に移行した社会制度が必要だ。少子高齢化も人口減少も、適切に人口・世帯構造変化に対応する社会政策をとれば決して乗り切れない課題ではない。重要なことは長期的な時代変化を的確に捉え、柔軟かつ果敢に社会制度を変革してゆくことである。
(2015年11月24日「研究員の眼」)
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