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- ギリシャ債務問題と民主主義の課題
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1――民主主義の欠点
デモクラシー(民主主義)という言葉は、ギリシャ語のデモクラティアに由来し、古代民主主義はギリシャにあった都市国家(ポリス)で生まれたとされる。人々の意思が政治に反映されない制度では、国民は幸福になれない。しかし、古代ギリシャでは大衆に迎合した人気取りに終始する衆愚政治がはびこり、衰退の道を歩んだ。
6月下旬ころから世界経済はギリシャの債務問題に揺れた。ドイツなど他のユーロ加盟国との支援交渉で、ギリシャ政府は次々と思いもよらぬ行動に出た。戸惑う各国首脳を見て溜飲を下げたギリシャ国民もいただろうが、冷静に考えれば交渉の過程でギリシャが失ったものの方が大きかった。ギリシャ政府は交渉相手としての信頼を無くしてしまい、資金的な負担をする側の国々の国民からの支援を得難くしてしまった。
ギリシャは支援を受けるために、支援国より手厚いと批判される年金の削減など、痛みを伴う様々な国内改革を受け入れる必要がある。ギリシャの指導者は不人気でも国民を説得することが必要だ。
2――高失業下の緊縮財政
ギリシャは政府が多額の債務を負っているというだけではなくて、債務の多くが海外からの借り入れだということがより問題を難しくしている。問題を根本的に改善するためには債務の元本を大幅に削減しなくてはならない。多額の利子と元本の返済を行なうためには、ギリシャはかなりの規模の経常収支の黒字を出す必要がある。IMFが今年の4月に出した予測では、今後長期にわたってギリシャの財政収支と経常収支が黒字となって、徐々に政府債務のGDP比が低下して、状況が改善していくという問題解決の道筋が描かれていた。
1997年のアジア通貨危機の場合を見れば分かるように、こうした場合には通常であれば債務国の通貨が大幅に下落する。輸入品の価格が高騰して輸入が減少するが、激しいインフレに苦しむことになる。しかし、この一方で通貨下落によって輸出は大きく伸びる。経常収支は大幅に改善して黒字となり、債務の削減も可能になる。
ところがギリシャの場合には、共通通貨のユーロを使っているのでこうした効果が働かない。著しい輸入インフレの発生は回避できているが、国際収支を改善するためには、失業率が20%を超えるほどの強い財政緊縮策を続けることが必要になっている。
3――ギリシャの債務再編は不可避
元はと言えばギリシャ国民が借りたお金だから、ギリシャ国民の負担で返済するのは当然だ。とはいうものの、多くの国民の生活が危機に瀕しているにも関わらず、政府が救いの手を差し伸べることができないという状況は危険だ。民主主義国家であるからこそ、苦境に陥った国民の不満が本来意図したところとはかけ離れた政策に繋がってしまうということが起こる。
第一次世界大戦後のドイツは、世界で最も民主的といわれたワイマール憲法を持ちながら、戦勝国に対する賠償金支払がもたらす経済的混乱の中で全体主義への道を歩むことになる。ケインズは賠償金額が過大で、国家間の対立をもたらすとして、賠償金削減の論陣を張ったが、各国政府は国民の批判を恐れて耳を貸さなかった。
ところがギリシャ問題では、逆にドイツが負担に対する国民の強い反発を背景に、債務削減に対して厳しい姿勢をとり続けているというのは歴史の皮肉だ。IMFが指摘しているようにギリシャの債務は実質的な削減が必要で、支援国側の指導者は負担に反発する国民を説得する責務がある。
先進諸国の指導者は、一見容易に見える選択肢が、実はより厳しい状況に繋がってしまうということを、国民に納得させることができるだろうか。第二次世界大戦後、民主主義の下で発展を続けて来た先進諸国は、大きな課題に直面している。
(2015年09月07日「基礎研マンスリー」)
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