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女性管理職登用の「壁」- 採用段階で生じる「女性活躍」の足かせとは -
生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
【はじめに】
大企業に女性登用の行動計画づくりを求める(300人以下の中小企業は努力義務とする)女性活躍推進法案が、国会で審議されている。
女性管理職の登用がなかなか進まないわが国において、法により、企業が女性登用に積極的に取り組むことが促されることになる。この背景には今年の3月、国連婦人の地位委員会が「2030年までに指導的立場の女性を半分に」するという目標を掲げた影響が大きい。日本政府もこの関連文書に合意しているのである。残念ながら男女雇用機会均等法の制定の際もそうであるが、日本は女性活躍において、つねに先進諸外国の後追いをしている状態からいまだ脱却できない。
それでは企業が今後、女性登用に本気で取り組む場合、何が壁となるのであろうか。
企業で女性が管理職に到達するための前提として、まずは採用と定着の問題がある。
採用されなければ女性管理職の育成は出来ないし、採用しても定着しなければ管理職には到達しない。
本稿では、採用と定着、この2つのうちの採用に絞って考察したい。というのも、定着に関しては男女における大きな差が確認できなかったからである。
厚生労働省の平成25年雇用動向調査によれば、思うほどの男女差が離職率にはないことが確認できる。ここで、雇用動向調査における離職率とは「年初の常用労働者数に対する離職者数の割合」を示しているが、平成25年度雇用動向調査における一般労働者離職率(短時間勤務以外の労働者の離職率)は男女計で12.4%、うち男性が10.7%、女性が15.8%となっている。女性管理職割合が極端に少ないことをこの離職率差をメインとして語ることは難しい。
以上から、「採用」という側面に注目をして、女性を登用する企業側、そして登用される女性側から、双方の意識をみることで女性管理職登用のわが国における「足かせ」の一要因を探ってみたい。
【企業から見た女性登用の課題:候補となる女性がいない】
企業の経営者ならびに人事・総務・管理部門に属する2857人(延べ2743社)に対する「女性管理職を増やす上での問題として当てはまるものを選ぶ」という質問への回答が図表1である。
6割近くの回答者が選んだ突出した1位の理由は「候補となる従業員の不在」である。つまり、登用したくてもそもそも対象者が存在しない、というものである。
この結果は一つには、コース別人事において、企業が管理職候補である「総合職」に女性をあまり採用してこなかった歴史があるため、当然の結果といえる。
厚生労働省が問題視して毎年公表している「コース別雇用管理制度の実施・指導状況」によれば、平成26年度の調査で総合職採用者の女性比率がようやく2割を超えたばかりである(図表2)。
このような状況であるので、いざ女性を管理職に登用しようとしても企業に人材不足が生じてしまう。企業は今後、迅速に総合職への女性採用を増加させる必要がある。
ここで、そもそも女性の総合職への応募が少ないので採用が少ないのではないか、という疑問が起こるのは当然である。
しかし、厚生労働省の発表によれば、最新情報の平成26年度採用において、総合職の男女別採用倍率を見ると、男性30倍に対し、女性は43倍となっている。同省の前回調査(平成23年度)では、男性17倍に対しなんと女性は63倍であった。
国の指導により是正が急速に進んでいるとはいえ、今後も男女の総合職の採用格差を縮小するための努力が望まれる。
【採用される女性から見た女性登用の課題:楽しく働きたい】
ここまでは採用する側の女性登用の問題をみてきたが、では採用される総合職候補となる女性側はどのように考えて就職したいと思っているのであろうか。以下は就職活動を控えた大学生、大学院生の就業感を調査した結果である。男女差をとることで、より女子学生が何を希望しているのかを見てみることにした。
男子学生に比べて目だって女子学生の就業感に多いのは「楽しく働きたい」であった。
男子学生は文理とも3割程度の支持率であるが、女子学生に関しては文理とも4割近くの支持を集めて、男性に比べて「個人の生活と仕事を両立させたい」に比べても高い支持を集めている。
同調査によると女子学生の「楽しく働きたい」は十数年間トップの支持を集めているという。
では「楽しく働く」とは何をさしているのであろうか。
これについては直接的な回答を求める質問は行われていないが、「行きたくない会社」という質問についての回答を見ると男女差は以下の通りとなっている。
理系女子は理系男子よりも、ノルマや大学・男女差別を嫌う。そのかわり、仕事の内容の面白さや会社の経営等には男子より関心がないようである。
文系女子でもやはりノルマや大学・男女差別が嫌われるが、転勤が多いことも男子学生よりも避けられることが見て取れる。そのかわり、男子ほど給料は気にしていない。
【考察からの示唆】
企業の人事関係者のアンケート結果や厚生労働省の採用格差データから、まずは女性の総合職採用人数を早急に拡大すること、が課題であろう。しかしながら、採用される側とのミスマッチがあれば、企業側の思うような人材は集まらない。
就職活動前の大学生・大学院生の調査からは、職場におけるノルマや大学・男女差別的な企業がより女子学生から嫌われていることが示された。
学歴・男女差別的な企業について、男子学生からよりも女子学生から、よりネガティブに評価されている点については、今後も、企業の過去の学歴・男女別採用実績をより女子学生が気にしてチェックするだろうと思われる。これに対しては、上に述べたように、まずは女性の採用枠を拡大していくことで企業の姿勢を示すのが最も説得力のある方法であろう。
ノルマについては女性であるから減らす、という性質のものではない。しかしながら、男性にはなくて女性にだけ生じるライフイベントである妊娠・出産(・育児休業)などの期間のノルマに業績や評価が影響されるような体系は、明らかに女性に不利となってしまうため、今後十分に検討する必要がある。また、図表の補足にはなるが、文系女子学生において特に「転勤」も壁になっているようである。妊娠出産というライフイベントが想定される女性にとっては、男性では問題にならないようなノルマ制や転勤が少なからず不安を与える制度であることは否めないだろう。
急速に進む人口減少社会において、不足する労働力を補う優秀な女性人材を確保、育成するための「採用の壁」改革が必要である。このために企業経営者に残された時間はあまり長くはない、そう言えるのではないだろうか。
調査機関 2013年12月1日~2014年2月28日
調査方法 WEBフォームによる回収
有効回答 9705名

03-3512-1878
(2015年08月10日「研究員の眼」)
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