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現在政府が進める地方創生では、中長期展望として「人口減少問題の克服」「成長力の確保」が掲げられている。この「人口減少問題の克服」の中に東京一極集中是正が含まれる。地方の人口減少に歯止めをかけ雇用を創出することについては、東京の国際競争力向上とどちらを優先するのかという観点もあるが、これらは相反するものとせず相乗効果を目指して欲しい。
地方創生では、一極集中は人口の集中でとらえられているが、投資用不動産の市場シェアは、実際の資産額を積み上げたデータがないため、GDPで近似することがある。例えば、東京都にはGDPの19%が集中し、首都圏では32%に達する。東京都の人口は全人口の10%、首都圏は28%であることからみると、投資用不動産の一極集中度は人口より高いということができる。
このため、日本国内で不動産投資の地域分散は図りにくいという一極集中問題もある。これに対して、GDP1位の米国では地域ごとに強い経済基盤を持つことから、年金などの機関投資家が地域分散した国内不動産投資を比較的容易に行える。証券投資では地域分散は一般に国際分散であるが、リアルアセットである不動産への投資では、国内での地域分散でリスクを低減する効果もある。日本の経済規模と地震国であることを考えればなおさらだ。
米国が地域ごとに経済基盤を持っている要因の一つに、各州が自治権を持ち政府の権限が限定されている連邦制となっていることがある。これに類似しているのがドイツで、同じく連邦制をとるドイツでは大手企業が各都市に分散し、地域の経済基盤を支えている。また、首都・文化機能のベルリン、金融のフランクフルト、先端産業のミュンヘン、製造業のデュッセルドルフというように地域の特性もある程度分散している。県に相当する行政区でGDPの全国シェアが10%を超えるものはない。ドイツには投資取引で世界のトップとなるような都市はないものの、産業が集積した都市圏が複数あることから国内での分散投資がしやすい。
対照的なのはフランスで、パリ圏とも呼ばれるイル・ド・フランスへの経済の集中度が高く、GDPは全国の30%を占める。フランスでは16世紀の絶対王政から中央集権体制が続いているが、イル・ド・フランスは王の領有地だったという。地方の主要都市にはリヨン、マルセイユなどがあり、それらの所属地域はGDPの9.7%、7.2%を占めるものの、確認できる投資取引は少ない。
英国はこれら2国より複雑で、イングランド、スコットランドを含む4国で1国家をなしている。各国の自治権は強まりつつあるが、GDPの85%を占めるイングランド内は中央集権的な統治体制となっている。行政区ごとのGDPシェアは、ロンドン行政区が22%、その西側のサウスイースト行政区が14%で、スコットランド等も含め他の行政区は10%に満たない。最近はロンドンの不動産価格が上昇し、利回りが確保できる地方都市への投資が増えてきているが、投資対象都市としてはやはりロンドンが突出している状況にある。
経済活動や不動産が首都あるいはその経済圏に一極集中しているのか、分散しているのかは、中央集権か、独立性の高い自治体で構成される連邦制かといった統治システムによって大きな影響を受けるといえそうだ。日本は明治になって急速に中央集権体制が確立されたが、鎌倉期から江戸期まで600年以上にわたって各地の領主が領地をそれぞれ統治していた歴史を持つ。米国やドイツのような経済圏の分散は難しいかも知れないが、地域が独自に雇用や文化を創出する風土はあるのではないだろうか。地方創生では、地方経済圏の活性化によって、不動産市場の一極集中も是正されることに期待したい1。
(2015年03月30日「研究員の眼」)
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