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中国、スマートフォン利用者5億人―高まるよりスマートな生活への欲望

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき
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夕方の地下鉄の車内。多くの人がスマートフォンに目をやり、メッセージのやりとりをしたり、音楽を聴いたりしている。車内は想像以上に静かだ-。
ほぼ1年ぶりの中国・北京でまず感じたのは、雑然としていて熱気に溢れる北京ではなく、どこか「スマート」な北京だ。北京ではこの数年で地下鉄網の整備が急速に進められたこともあると思うが、以前の乗降車時の混雑ぶりもそれほど感じられない。
地下鉄を降りて、地上に出て、タクシーに乗ろうとする。以前は手を挙げただけで簡単に乗れたが、今回は目の前をタクシーが何台も通り過ぎていく。なかなかタクシーがつかまらない。地下鉄は路線が増え便利にはなったものの、駅から目的地には歩いて行ける距離ではない場合が多く、やはりタクシーは便利である。しかもタクシーは料金が初乗り13元(約250円)と日本に比べても手頃である。特に天候が悪い日や時間や効率を考えて移動する日はなおさらだ。
タクシーがつかまりにくい原因はスマホの配車アプリにある。配車アプリとして有名なのは中国語で「快的打車」、「嘀嘀打車」という名前の2種類。実験的な導入を経て、北京で急速に普及が進んだのは一昨年後半から去年あたりらしい。使い方としては、タクシーに乗るときに、アプリからGPS機能を使って自分の位置と目的地を伝えると、その周辺にいる(同アプリを入れたスマホを持つ)タクシーが表示され、その運転手から返事が直接返ってくるというシステムである。つまり、運転手は予約をした利用者がいる場合、道端で誰かが手を挙げても素通りというわけである。
そもそもこの配車アプリは、タクシー会社が開発、運営しているものではない。普及が急速に進んだきっかけは、2013年以降、「支付宝(アリペイ)」や「QQ銭包(QQウォレット)」といったオンライン決済サービスと連携し、タクシー料金の支払いをスマホで可能とした点にある1。これらの背景には中国通販サイト最大手のアリババや、微信(Wechat)といったSNSで有名なテンセントが控えており、成長著しいオンライン決済の取引高、ユーザーの拡大において熾烈な競争を繰り広げている。2014年に入ると、いずれの企業も自社が優位に立つため、タクシーの利用者に対してはアプリ利用によるスマホ決済をするたびに、タクシードライバーに対しては乗客がアプリを使ってスマホ決済をするたびに十数元がキャッシュバックされるキャンペーンを実施した(いずれも1日あたりの上限あり)。これが奏功し、2014年時点でこれら2つの配車アプリは、それぞれユーザー数が1億人を超え、全国300の都市で使用されるほど普及しているという。
一方、このような仕組みをうまく活用しようとしたのが北京市行政である。その目的はタクシードライバーの所得向上、乗車効率の改善、更には利用者の利便性の向上にある。市のタクシーの登録台数はおよそ7万台と多くはない。加えて、人口の増加や所得の向上で利用者は増加しているのにもかかわらず、その規模は2000年以降ほぼ変わらないとされ、タクシーが以前と比べて利用しにくい点が指摘されていた。一方、タクシー料金は物価の上昇と同様には引き上げられておらず、ほぼ据え置かれたままであり、タクシードライバーは厳しい生活を強いられている。市政府は、スマホやネットを通じたタクシーの利用を後押しすることで、乗車率の改善をはかり、タクシードライバーの所得を向上させ、市民のタクシー利用の利便性の向上をはかることとした。行政が民間企業のアイデアや新たに生まれる事業をうまく活用しながら、監督・管理という立場で、その成果にフリーライドするのは、中国の官・民連携のお決まりのパターンだ。
翻って、中国のスマホユーザーは2014年時点で5億人を超え、2015年には全人口のおよそ4割以上がスマホを使用することになる。その多くは1980年代、1990年代生まれを中心としたデジタルネイティブの世代である。かれらより1つ前の世代までは、何につけても規制が厳しく、サービスや利便性といったものを手に入れるには、常に「人(コネクション)」と「手間」を介し、多くの労力を支払う必要があった。中国で「人(コネクション)」や「手間」を介さないインターネットやスマホが一気に普及し、人々がオンライン上のサービス等の活用に積極的なのは、これまでのサービスや利便性に対する潜在的な欲求の解放が見え隠れする。全ての人や世代がスマホと同じような機能を所有し、使いこなせるかといったITリテラシーの課題や、個人情報の取り扱いといったリスクは常にあるが、その課題を横目により便利でよりスマートな生活への欲求は更に過熱の様相を呈していく気がしてならない。
(2015年03月10日「研究員の眼」)
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03-3512-1784
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
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