コラム
2015年03月02日

「細則主義」に慣れた日本企業は「原則主義」に適応できるか?~ 2015年は「企業統治元年」と言われるが・・・・・ ~

川村 雅彦

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今なお会計基準の国際的な議論が続いているが、国際財務報告基準IFRSには細かい規則はなく、原則のみが示され、企業はその適用を柔軟に行うことのできる「原則主義」が採用されている。これに対して、日本基準は具体的な処理方法を細かく規定する「細則主義」である。細則主義では、細かな規則を理解さえすれば、処理に当たっては形式的な判断で十分であった。しかし、原則主義では、原則の趣旨を理解したうえで、判断のための根拠や基準を自ら設定しなければならない。

かつてわが国では、“箸の上げ下ろし”まで行政が企業を指導した時代があった。これは企業経営の基本的な考え方ではなく、日常の行動や実務を細かく規定することを象徴的に表したものである。これが高度経済成長をリードしたことは事実であろうが、半面、経営者が経営戦略や諸課題を自ら考え判断する機会を奪ってきたと言うこともできる。

このように、長いこと日本企業は誰かが決めた枠組みやルールを“愚直”に実践してきた。しかし、経済のグローバル化が加速的に進展する中、2015年は日本の「企業統治元年」と言われる。

昨年2月、金融庁は機関投資家の投資先企業の持続的成長に対する責任を明記した「日本版スチュワードシップ・コード」を公表した。これに対応する企業の責務を明らかにした「コーポレートガバナンス・コード」が、この3月に発表され6月には施行される。この二つのコードは投資家と企業の関係を大きく変えることになるが、いずれも原則を示すだけである。

他方、投資家と企業をつなぐ媒体として、両コードに先立って公表されたのが、2013年のIIRC(国際統合報告審議会)による「国際統合報告フレームワーク」である。これに基づき財務情報と非財務情報を統合して開示することが世界的な動きとなっているが、こちらも開示の原則と基本要素だけが提示されているに過ぎない。

これまで細則主義に慣れ親しんできた日本企業は、原理原則に基づき自ら考え行動する原則主義に戸惑いを隠せないようだ。しかも、原則に従わなくてもよいが、その場合には、どのように判断し、どのように対応するのか自ら説明する必要がある(Comply or Explain)。

“雛型”を求める声も依然として少なくない。しかし、原則主義で大事なことは、グローバルな社会的課題を含む経営環境の長期トレンドを踏まえつつ、様々な利害関係者とのエンゲージメント(建設的な対話)を通じた、大局観に基づく自社特性に相応しい独自の経営戦略の策定である。

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(2015年03月02日「研究員の眼」)

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