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- 配偶者控除は見直しを-「女・女対立」の演出や先延ばし議論を超えて
安倍政権が公表した「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」(2013年6月14日)では「女性の活躍推進」の必要性が強調され、そのための環境整備として「働き方の選択に関して中立的な税制・社会保障制度の検討を行う」とされている。これを受けて、2014年5月9日の政府税制調査会において、配偶者控除の見直しに関する議論が本格的にスタートした。
配偶者控除とは、納税者本人の配偶者の収入が103万円以下の場合に、納税者本人に適用される所得控除を指す。たとえば、妻の年収が103万円以下であれば、夫に対して配偶者控除38万円が適用され、その分夫の手取り収入が増えることになる。また、妻のほうも、給与所得控除65万円、基礎控除38万円が適用されることから、年収103万円の範囲であれば所得税を支払う必要がない。なお、妻の年収が増加したにもかかわらず、世帯としての手取り収入が減少するという逆転現象を解消するために、妻の年収が103万円から141万円までの場合には、夫に対して、段階的に低減する配偶者特別控除(最高38万円)が適用されている(妻の年収141万円になると特別控除額はゼロになる)1。また、税制とは別の話だが、年収130万円以上になると社会保険(厚生年金保険、健康保険)の被扶養から外れ、社会保険料の本人負担が発生する2。こうした仕組みが就業調整の誘因となることから、配偶者控除は「103万円の壁」、社会保険料の被扶養枠は「130万円の壁」と呼ばれている。
就業する日数や時間による就業調整が特に顕著なのはパートタイム労働者である。厚生労働省「平成23年パートタイム労働者総合実態調査」によると、配偶者がいる者のうち18.3%が就業調整を実施しており、そのうち33.1%が「一定額を超えると配偶者の税制上の配偶者控除が無くなり、配偶者特別控除が少なくなるから」を理由としてあげている。ちなみに女性雇用者(役員を除く)の34.6%はパートタイム労働者であり、パートタイム労働者の89.2%を女性が占める(総務省「労働力調査」、2012年平均)。
配偶者控除が最初に導入されたのは1961年。伝統的な日本型雇用システム(終身雇用、年功序列、企業別組合等)が高度経済成長を牽引したとされる時代である。男性は仕事、女性は家庭という伝統的家族観も、こうした日本型雇用システムと表裏のものとして発展してきた。つまり、女性労働力は、男性正社員を中心とした日本型雇用システムの外枠として、安価な補助的・縁辺的労働力を確保できる限りにおいて企業に重宝され、家庭においては、主婦としての役割を疎かにしない範囲で働くことが許容されていた面が大きい。しかしながら、昨今の労働力人口の減少下において、男性正社員だけを念頭に置いた日本型雇用システムは立ち行かなくなりつつあり、女性を単に補助的・縁辺的労働力としてではなく、中核人材としても活躍してもらう必要性が高まるなか、冒頭に述べたように政策として女性の活躍推進が謳われている。このようななかで、年103万円の範囲内での活躍に誘導するような政策を存置するのは、政策の一貫性という面でも矛盾する。
ところで、配偶者控除の見直しの議論においてしばしば出てくるのが「働く女性」対「専業主婦」という「女・女対立」の論調だが、こういう論調に対して、筆者は以下の2つの理由から違和感を覚える。
第1に、配偶者控除の見直し、ひいては女性の活躍推進の問題を、「女・女対立」として捉えると、単に女性同士の問題のように誤解される懸念がある。この問題は、男性にとっても決して対岸の火事ではない。たとえば専業主婦が働きに出る、103万円の範囲で働いていた女性がそれを超えて働くようになるためには、これまで彼女達が担ってきた家庭での役割を、男性もシェアする、あるいは貢献度の低下(たとえば夕食のおかずが短時間で作れる内容に変貌する等)を許容する必要がある。女性に対して、働きに出てもいいけど、他の家族に一切負担をかけない範囲でどうぞ、というのは無茶な話である。職場においても、時間制約のある女性が増えることで、男性も含めた職場全体の働き方が見直されることになる。配偶者控除の見直しの問題は、「女・女対立」の議論に矮小化されるべきではなく、男女とも、広く影響が及ぶ問題として認識されるべきだ。
第2に、「働く女性」と「専業主婦」は、実際には両者を行き来するケースが少なくない。特に一度も就業経験なく「専業主婦」になるパターンはもはや非常に稀で、現時点では「専業主婦」であったとしても、就業の途中、何らかの理由で「働く女性」から「専業主婦」になったというパターンが一般的だろう。一方、筆者のようにずっと「働く女性」だったという場合も、働き続けるという選択をすることに伴って、ないがしろにせざるを得なかったこと、失ってきたものも多々ある。自分の選択に惑い、別の選択をしたらどういう人生だったのかと思い巡らしてため息をつくこともままあるのだ。
こうした現状を踏まえると、「働く女性」対「専業主婦」という固定的な対立の構図は、実態の投影というより、むしろ一種の演出のように見えないこともない。
また、配偶者控除の見直しに向けては、次のような意見もある。
・ 配偶者控除を見直しても、仕事と家庭を両立しやすい職場環境が整わない限り、女性が非課税限度額(103万円)の範囲内で働こうとする現状は大きく変わらない3。
・ 「103万円の壁」が解消されたとしても「130万円の壁」があることから、配偶者控除を見直しても、女性の活躍推進に対する効果は小さい。
・ 法人税引き下げの財源の一部を捻出するために、配偶者控除が見直されようとしている。
・ 課税単位を個人から世帯単位に変更する等、税制の仕組みを抜本的に見直すべきだ。
どの意見も一理ある指摘であり、これらを否定するつもりは全くない。しかしながら、だからといって、これらの意見が配偶者控除の見直しを先延ばしする理由にはならないだろう。
配偶者控除は、「女・女対立」の演出や、先延ばしの議論に翻弄されることなく、今日的な意義という観点から撤廃の方向で見直されるべきだと考える。
・所定労働時間が週20時間以上
・月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)
・勤務期間1年以上
・従業員数501人以上
(2014年05月14日「研究員の眼」)
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