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- ベビーシッター事件と少子化対策-社会全体で“チルドレン・ファースト”の実現を!
3月中旬、ネットの仲介によるベビーシッターに預けられた2歳の男児が死亡するという痛ましい事件が発生した。顔が見えないネットサービスを利用して子どもを預けることの是非や、それでもそうせざるを得ない現状があるという指摘など、さまざまな意見が聞かれる。ここでは当事者の事情に関わらず、この事件から窺える子育て支援の現状と課題について考えてみよう。
まずは、多くの親たちがベビーシッターという子育て支援サービスを必要としているという事実だ。親のワークスタイルが多様化し、その個別ニーズに対応する保育サービス需要が高まっているのだ。しかし、主に行政が提供する定型的な子育て支援サービスだけでは、個別ニーズに柔軟に応えることができない。そのため、隙間を埋めるインフォーマルなサービスが必要になっているのである。
近年では、医師などの専門職に就く女性も、仕事と子育ての両立の難しさから離職が増えている。勤務医の場合は、就業時間が長く、急患や緊急手術への対応など、多忙かつ突発的な仕事のために、複数のベビーシッターを確保しながら、何とか仕事を継続している人も多いという。
つぎに、若年層の非正規雇用者が増加し、企業の福利厚生の恩恵に与れない人が増えていることだ。若者の雇用環境は長時間労働や低賃金など、子どもを育てる上での時間的・経済的制約も多く、不安定な雇用環境の改善が急務だ。また、ベビーシッターのような子育てサービスには、公的扶助が入っていないことが多く、安心して利用するためには利用料金の高さや質のバラツキなどの課題が残る。
今回の事件の被害者は亡くなった子どもであることは紛れもない。その点からは子どもの成育環境の「質」が問われていると言える。いよいよ4月から消費税が8%にアップ、社会保障制度の枠組みも全世代型へとカジを切る。来年4月実施予定の「子ども・子育て支援」新制度では、増税分から7千億円が少子化対策に充てられるが、保育施設の整備など「量的拡充」の他、子育て支援サービスの「質的向上」に向けた保育所の人員配置や保育士の処遇改善等を行うには、4千億円の財源が不足しているという。
新制度への移行にあたり、限りある財源を適切に配分し、NPOを含む民間事業者等による、行政では届かない個別ニーズに対するサービス提供体制が必要であり、その質が厳しく問われなければならない。「子ども・子育て支援」とは子育てする親などの支援と同時に、子ども自身の「育ち」を社会が保障することだからである。すべての子育てに関わる行政、事業者、大人は“チルドレン・ファースト”実現を目指さなければならない。それが今回の事件で亡くなった子どもに対する社会の責任だと思う。
(2014年03月31日「研究員の眼」)
土堤内 昭雄
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