- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 暮らし >
- 子ども・子育て支援 >
- 少子化政策めぐる議論への疑問 -“待機児童ゼロ”の「子育て」・「子育ち」支援
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
安倍政権は「成長戦略」として女性の活躍できる社会を目指し、保育所待機児童の解消や3年育児休業の実現を打ち出している。先日も、首相自ら東京都内の事業所内保育施設や横浜市内の民間企業が運営する認可保育所を視察している。ようやく少子化対策が国の根幹にかかわる施策であることが広く認識されるようになったものの、私はその政策実現をめぐる議論にやや疑問を感じている。
それは少子化政策の対象主体についてである。少子化政策には、子どもを育てる主体(おとな)と、成長・発達する主体(子ども)に対する施策がある。ここでは前者を「子育て」支援、後者を「子育ち」支援と呼ぼう。少子化政策としては、両者が相乗的に機能することが重要だが、最近の少子化をめぐる議論は、「子育て」支援が中心で、「子育ち」支援の視点が希薄であるように思えてならないのだ。
先般も「3年育児休業」に関して多くの政治家や有識者から賛否両論の意見が出ていたが、いずれもその論点は働く親や企業の立場に立つ「子育て」支援としての見解であり、子どもの成長・発達の視点からの「子育ち」支援的発言は少なかった。
また、ある自治体で保育所の利用者満足度調査を行ったところ、駅から離れた土の園庭のある保育所は、駅前の園庭のない保育所に比べ、親の評価が低かったそうだ。確かに駅前立地は働く親にとって便利だが、一方で土の園庭の保育所の場合、子どもの服は土で汚れ、日々の限られた時間の中で洗濯に要する労力と時間は、働く親にとって大きな負担になるからだ。
『保育には応えるべきニーズと、応えてはならないニーズがある』と言われるが、保育事業者にはそれを峻別する眼が求められるのだ。横浜市は企業が運営する保育所が増加するなどして“待機児童ゼロ”を達成した。また、政府は今後2年間に20万人の保育所定員増を図る「待機児童解消加速化プラン」を策定した。今後は、“待機児童ゼロ”という目標と共に、保育所運営が本当に“チルドレン・ファースト*”で行われているのか、保育の「質」に注視することが必要である。
少子化政策は、「子育て」支援と「子育ち」支援の両輪だ。保育所に子どもを預ける親のニーズに耳を傾けると同時に、子どもの声なきサイレントニーズを置き去りにしてはならない。また、保育士の資質向上や保育スペース・園庭等の保育環境が子どもの成長・発達に与える影響など、「子育ち」支援の視点からの議論が不可欠である。少子化政策を「成長戦略」と位置づけるなら、「子育て」支援はもとより、「子育ち」支援による、目先の効果を超えた国の礎を築くというグランドデザインが必要なのである。
(2013年05月27日「研究員の眼」)
土堤内 昭雄
土堤内 昭雄のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2018/12/20 | 「定年退社」します!-「生涯現役」という人生の「道楽」 | 土堤内 昭雄 | 研究員の眼 |
2018/11/28 | 「人生100年時代」の暮らし方-どう過ごす?! 定年後の「10万時間」 | 土堤内 昭雄 | 基礎研レポート |
2018/11/27 | 「平成」の30年を振り返って-次世代へのメッセージは、「レジリエントな社会づくり」 | 土堤内 昭雄 | 研究員の眼 |
2018/10/23 | 「幸せ」実感できぬ社会-豊かな時代のあらたな課題 | 土堤内 昭雄 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年03月21日
東南アジア経済の見通し~景気は堅調維持、米通商政策が下振れリスクに -
2025年03月21日
勤務間インターバル制度は日本に定着するのか?~労働時間の適正化と「働きたい人が働ける環境」のバランスを考える~ -
2025年03月21日
医療DXの現状 -
2025年03月21日
英国雇用関連統計(25年2月)-給与(中央値)伸び率は5.0%まで低下 -
2025年03月21日
宇宙天気現象に関するリスク-太陽フレアなどのピークに入っている今日この頃
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【少子化政策めぐる議論への疑問 -“待機児童ゼロ”の「子育て」・「子育ち」支援】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
少子化政策めぐる議論への疑問 -“待機児童ゼロ”の「子育て」・「子育ち」支援のレポート Topへ