コラム
2014年03月13日

『ワーク・ライフ・バランス支援の課題』の刊行に寄せて

松浦 民恵

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さる2月20日に「東京大学社会科学研究所ワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクト」(以下「本プロジェクト」)の研究成果報告会が開催され、同日、本プロジェクトの研究者メンバーが中心となって執筆した『ワーク・ライフ・バランス支援の課題:人材多様化時代における企業の対応』(佐藤博樹・武石恵美子編、東京大学出版会)が刊行された。

本プロジェクトは2008年10月に発足した民間企業等との共同プロジェクトであり、筆者も2011年度から研究者メンバーとして参加させて頂いている。発足以来、企業等の実務担当者と研究者・コンサルタントによって、企業・職場におけるワーク・ライフ・バランスに関わる課題に焦点を当てた実態調査や「本音」の情報交換をもとに、現場に根ざした提言が行われてきた。

今回刊行された『ワーク・ライフ・バランス支援の課題』は、本プロジェクトが早くから追い続けてきた「ワーク・ライフ・バランスと働き方改革」(本書の第III部)の課題と、2010年前後から特に顕在化してきた新たな2つの課題から構成されている。

1つめの課題は「女性の活躍の場の拡大」である。ワーク・ライフ・バランスの支援に注力した企業で女性の定着が進んだ一方、定着した女性が十分に活躍できていないのではないか、という課題が浮き彫りになってきた。本書の第I部は、この課題に正面から向き合い、課題の背景・本質を探り、解決の方向性を示している。

もう1つの課題は「仕事と介護の両立支援」である。高齢化が急速に進行するなか、親等の介護に不安を抱えている、あるいは実際に介護に直面している社員の割合は、企業の想像を遙かに上回るケースが少なくない。本書の第II部は、介護への不安意識や実際に介護に直面している従業員の実態を踏まえ、従業員が介護のために離職することなく、仕事と介護を両立しながら働き続けるための方策を示している。

本書の構成

本書の「はじめに」にあるとおり、「企業の現場で生じている具体的な課題に向き合い、企業の実務家と連携して共同研究を進めてきたことが、本プロジェクトの強み」である。また、研究が単なる研究で終わるのではなく、研究成果が着実に、企業の現場を変える原動力になってきたという面でも、本プロジェクトの貢献は大きかったと考える。

本プロジェクトは、『ワーク・ライフ・バランス支援の課題』の次のステップとして、「多様性推進」も含めて人材活用策のあり方を検討するために、2014年度からは「ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト」として生まれ変わり、新たな地平を目指す。研究と実務が創り出す一種のイノベーションに、筆者も引き続きメンバーの一員として、微力ながらお役に立ちたいと思っている。

(2014年03月13日「研究員の眼」)

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松浦 民恵

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