コラム
2014年01月27日

MOOCが切り開く新世界~オンライン大学(MOOC)への期待と不安

押久保 直也

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最近、日本においてもオンライン大学のMOOC(ムーク)が流行しており、筆者の周りにも受講者が多い。MOOCとは「Massive Open Online Courses」の略で、世界中の主に経済的に恵まれない人々に学習の機会を提供するWebサービスであり、主なものにはCoursera、Udacity、edXなどがある。インターネットを通じて世界の一流大学(ハーバード大、スタンフォード大など)の多岐にわたる分野の授業が誰でも無料で受けられる(図表1)。MOOCが普及することで、経済的に恵まれない人々の学力も向上し、世界で活躍するグローバル人材が先進国のみならず新興国からも多く生まれることが期待されている。日本では東京大学が2013年9月から一部の英語による授業をCoursera上で配信しており、2014年春からは京都大学がedX上で授業の配信を予定するなど、国内大学も本格的にMOOCへの授業配信サービスに取り組み始めている。すでに、東京大学の登録者数は外国人を中心に合計8万人を超え、修了者数も5000人に及ぶなど、世界中の人々に学習機会を提供できるようになった
   では、このようなMOOCの流行が、今後高等教育市場にどのような影響を与えるであろうか。

第一に、MOOCの認知度が増すに伴い、世界中の大学が学生獲得を念頭にMOOCへの授業配信サービスを通じて、大学の授業を積極的にアピールすることが考えられる。その結果、優秀な学生の獲得競争が激化し、伝統校ですら授業への甘えが許されなくなる反面、ローカルな新興大学にも工夫次第では世界中にアピールするチャンスが確実に増えるだろう。一方、進学を目指す学生の立場からすると、世界中の大学の授業から自分にとって最適な大学を選択する機会が増えるだろう。
   第二に、MOOCがより世界中に浸透することで、大学の教室における座学形式の授業はMOOCに代替され、対面授業ならではのインタラクティブな付加価値のある授業のウェイトが高まると考えられる。その結果、大学教員にも研究能力のみならずコミュニケーション能力から企画力まで多面的なスキルがより必要とされることになるだろう。
   第三に、MOOCが一般的になることで、大学の収益モデルに変化が生じる可能性が高まるだろう。現在、多くの大学は生徒から授業料を徴収するという従来のビジネスモデルで主な収益を稼いでいるが、今後は各大学がMOOCで配信している授業の修了者に対して履修証を有償で発行したり、成績優秀者を人材登録会社に斡旋するサービスを提供したりするなど、収益源泉の多様化が進むことも考えられる。

以上のように、MOOCは高等教育市場を変える可能性を秘めており、今後の日本の大学経営においても無視できない大きな存在となるだろう。既存の手法にしがみつくのではなく、変化に備えてしっかり対応していくことが今後の大学経営には必要であると考えられる。少子高齢化の進展に伴い収益の悪化が懸念される多くの日本の大学にとって、MOOCの浸透は脅威というよりはむしろ世界中の学生・留学生・社会人を相手にできる大きなチャンスとなりうる。今後の展開に期待していきたい。


(図表1)MOOCの仕組み




 


 
 「Coursera」「Udacity」はスタンフォード大学の教員により設立されたMOOCプラットフォーム、「edX」はマサチューセッツ工科大学とハーバード大学により設立されたMOOCプラットフォームであり、コンピューターサイエンス、医学、経済学、数学、社会学など様々な分野の授業が無料配信されている。授業はオンラインでの座学中心の構成となっている。
 MOOCを通じて授業を修了しても、正式な単位や学位を取得できるわけではない。

(2014年01月27日「研究員の眼」)

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押久保 直也 (おしくぼ なおや)

研究・専門分野
日本経済、財政

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