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- あいまいさとの共存
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1-正反対の説でノーベル賞
2013年のノーベル経済学賞は、正反対の説を唱える学者が同時に受賞したということで、またまた物議を醸している。そもそも、この経済学賞はノーベルが遺言で創設したものではなく、1968年にスウェーデン銀行が創立300年を記念してノーベル財団に寄付した基金で創設されたものだ。経済学は科学ではないという声もあって、廃止すべきとまで言われたこともあるほど、しばしば議論のタネになってきた。
極めて大ざっぱに言えば、シカゴ大学のユージン・ファーマ教授は金融市場が極めて合理的であるということを実証し、一方イェール大学のロバート・シラー教授は金融市場が非合理的であるということを実証したことが評価されて受賞した。正反対のことを証明したというのは、どちらかが間違っているのだから、同時受賞はおかしいではないかという批判があちこちで見られる。
2-科学にもあいまいさ
実験ができない人文や社会科学の結論はあいまいだが、実験ができる科学の結論は明快だと言われることが多い。しかし、どうやら実際には、そう単純なものではないらしい。
重力が生まれる原因となるヒッグス粒子が2012年に発見されたことから、2013年のノーベル物理学賞は、理論にかかわった2氏に授与された。2012年7月4日付の日経新聞は、実験でヒッグス粒子が99.9999%以上の確率で存在するとの結果を得たと報じている。
しかしうがった見方をすれば、「99.9999%確かだ」ということは、ノーベル賞を受賞したこの研究が間違っている可能性がゼロではないということなのだから、どうにも気持ちが悪い。実は、2011年に98.9%の確率で存在するという結論が発表された際には、研究に関わった学者が98.9%の確率では、発見どころか兆候とすら言えないとコメントしている。
科学の世界でも、「正しい、正しくない」の境目は、意外にはっきりしないもののようだ。自然科学の分野でもノーベル賞を受賞した業績の中には、後から間違っているとされるようになったものまであるという。
3-あいまいさとの共存
今回のノーベル経済学賞の同時受賞について、素人なりの解釈をするとすれば、どちらが正しいということではなくて、どちらの説も経済学の発展に大きな貢献があったので受賞したということなのだろう。
もう一つ正反対の成果が受賞対象となった理由として考えられることは、どちらの結論も正しいという可能性だ。金融市場は極めて合理的に動くこともあれば、全く非合理的な動きを見せることもある、という二面性を持っているということである。
どちらが正しいか、正邪善悪の区別にしろ、実はそれほどはっきりしたものではなく、あいまいなものだ。人は善人か悪人かのどちらかということではなくて、一人の人間の中に善人の部分と悪人の部分が同居しているというのが普通ではないか。
どちらが正しいのかは、立場の違いや、見方の違いで異なることもありうる。どちらか一方だけが正しいということではなく、意見や見方が違うということを認めた上で、互いの立場を尊重するという、あいまいさとの共存ができればもう少し世の中は暮らしやすいものになるのではないだろうか。
(2014年01月10日「基礎研マンスリー」)
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