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- 女性登用に関する政策的数値目標は諸刃の剣 - 問われる人事担当者の役割
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政府は2003年に「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」という目標を掲げた(2003年6月20日男女共同参画推進本部決定)。加えて、2010年12月に閣議決定された第3次男女共同参画基本計画に、2015 年までに課長以上の管理職に占める女性の割合を10%以上とするという目標を盛り込んだ。さらに、2013年4月には、安倍総理が「成長戦略スピーチ」で、役員への女性の登用等を経済団体に要望したことを公表し、女性の活躍を政策的に一層推進していく決意を表明した。
このような流れの中で、女性登用に関する一連の政策的数値目標を念頭に、自社の女性活躍推進を見直す企業が少なくない。やや心配なのは、政策的数値目標の内容が正しく理解されず、なかには過大に解釈されているケースもあることだ。たとえば「『2020年30%』の目標」は、必ずしも民間企業の管理職のなかで女性を30%にするというわけではなく、「指導的地位に女性が占める割合」を30%程度に、という「期待」の表明である。また、「『2020年30%』の目標」も、管理職に占める女性を「『2015年 10%』の目標」も、個社ベースでの達成ではなく、あくまでも全体としての達成が期待されている。
実際、足元の現実をみると、政策的数値目標との距離感は、業種によっても相当の相違がある(図表1)。「卸売業、小売業」等の一部の業種を除けば、正社員から管理職や役員に登用されるのが一般的だが、正社員に占める女性の割合が2割を下回っている業種もある(「建設業」(13.9%)、「製造業」(19.2%)、「運輸業、郵便業」(9.7%)等)。このような業種においては、女性管理職10%の目標はともかく、30%はそもそも難しい状況にあると考えられる。また、「宿泊業、飲食サービス業」「生活関連サービス業、娯楽業」等を除くほとんどの業種で、正規の職員・従業員をベースとした女性管理職の割合が、雇用者をベースとした場合に比べて下回っていることも注目される。こうした業種では、起業もしくは社外や家族・親族からの登用等による「会社などの役員」が女性管理職の割合を引き上げ、正規の職員・従業員として新卒採用された女性社員は、管理職にまで育っていない懸念が大きい。
企業が女性の活躍を推進していくためには、仕事と家庭の両立による継続就業支援、管理職に育てるための仕事経験の提供等のキャリア形成支援、の双方に注力する必要がある。また、男性社員も含めて、家庭と両立しながら活躍できるように、働き方を改革していくことも、女性の活躍推進のために不可欠な条件となる。特に2000年代以降、これらの取組を熱心に進める企業が出てきたが、こうした企業でも、まだ漸く女性の管理職候補が育ってきた段階にあるところが少なくない。
このような状況を踏まえると、女性の活躍を推進したいと考える企業にとって、女性登用に関する政策的数値目標は「諸刃の剣」になるかもしれない。確かに、女性の活躍を阻害する社内風土や仕組み、女性社員や上司の意識を変えていくのは相当の困難を伴う。この困難さが、女性の活躍推進が古くて新しいテーマといわれる所以でもあるが、政策的数値目標という「外圧」が、困難な変革に対する「追い風」になるというプラスの捉え方もできよう。一方、企業が政策的数値目標に過敏に反応し、せっかく育ててきた女性の管理職候補に「無理な背伸び」を強いることは、本人にとっても周囲にとっても不幸な結果につながる懸念が大きい。つまり、政策的数値目標という「強風」にあおられて企業が女性の活躍推進に過度なドライブをかければ、むしろこれまで積み重ねてきた地道な取組をつまずかせ、中長期的な女性活躍推進を阻害するというマイナスの影響も懸念される。
女性の活躍が実現するかどうかは、女性社員や管理職によるところも大きいが、活躍推進体制の構築・整備という面では人事担当者が重要な役割を担う。個別の女性社員の登用が、「無理な背伸び」なのか、「成長につながる背伸び」なのかは、人事担当者が現場の女性社員や上司の声に耳を傾け、ケースバイケースで判断するしかない。さらに、経営トップに現場の実態を伝え、「強風」を制御することも人事担当者の重要な役割となろう。つまり、政策的数値目標を、自社における女性の活躍推進の「追い風」にできるかどうかは、人事担当者の見識や手腕によるところが大きい。人事担当者には、政策的数値目標にあおられることなく、内容を正しく理解し、自社の実態を冷静に見つめながら、女性の活躍推進を加速するための「追い風」として政策的数値目標をしたたかに利用してほしいと思う。
(2013年09月17日「研究員の眼」)
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