コラム
2013年09月17日

“熱中症”防ぐ「日傘」のマナー - 現代社会に「傘かしげ」の精神活かす

土堤内 昭雄

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秋分の日が近づき、ようやく夏の暑さが遠のいていく。それにしても今年の夏は暑かった。今年9月16日までの東京・大手町で観測された最高気温が35度以上の猛暑日は12日、30度以上の真夏日が55日、最低気温が25度以上の熱帯夜が39日あったそうだ。この暑さのために熱中症患者も多数発生、消防庁の発表によると今年6月から8月までの全国の合計救急搬送人員は55,596人となった。

このような猛暑の中、適切なエアコン使用やクールビズといった軽装が推奨されたが、今年、特に目についたのが「日傘」の使用だ。かつては中高年女性の使用が多かったように思うが、近年では若い女性の日焼け防止や子どもの熱中症対策としても使われている。また、一部メディアで「日傘男子」が話題となったように、デパートなどでは男性用日傘の品揃えを増やしたという。

確かに“モバイル日陰”となる「日傘」は便利だが、使用上の留意点もある。人ごみや他の人とすれ違う時、野外でのスポーツ観戦などでの使用は注意が必要だ。往来の激しい歩道などでは、目の前の傘に危険を感じることもある。雨傘ではほとんどの人が傘を差しているのでお互いに一定の距離をとることができるが、日傘の場合、特に女性が差す日傘は、ちょうど男性の目の高さに傘の骨がくることが多い。日傘はマナーを守らないと他の人に思わぬ危害を加えてしまうことがあるのだ。

銀座の人ごみの中でも無造作に日傘を広げている人を見かけるが、混雑の酷いところでは、つばの広い帽子をかぶるなどして、日傘の使用は控えて欲しい。かつて江戸には“江戸しぐさ”といわれる都市生活を快適に暮らすための行動哲学があったという。そのひとつである「傘かしげ」は、雨の日に往来ですれ違う際に傘を外側に傾けて、相手に水滴がかからないようにしたそうだ。日傘を使う人も、人ごみではそっと傘を畳むような他者を思いやる気配りがあれば素敵だな、と思う。

現代社会では急激に個人化が進むことで、あまりにも自分のこと以外に関心が払われなくなっているように思える。通勤電車内で化粧に専念する人やイヤホンから音漏れするほど大音量で音楽を聞く人、歩きながらスマホに夢中になり他の通行人にぶつかる人など、「自己中」と思しき人が増えている。大事なことは、心に余裕を持って他者をさりげなく慮ることだ。自分のことだけに熱中し、自分のことしか目に入らない“熱中症”は、「日傘」では防ぎようがない。せめて他者へのちょっとした気遣いを示す「傘かしげ」の精神を学び、「日傘」のマナーを実践することで、現代社会の新たな“熱中症”に対する防止策のキッカケをつくってはどうだろう。



(2013年09月17日「研究員の眼」)

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