コラム
2013年09月09日

“タバコ”とコミュニケーション - 新たな対面文化創造できるか

土堤内 昭雄

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電子書籍、電子辞書、電子ピアノ、電子カルテ、電子マネーなど、電子○○という言葉が社会に溢れている。先日もバスの中で『「電子タバコ」の使用制限について』というポスターを見かけたのだが、喫煙習慣のない私には、「電子タバコ」とは一体どのようなものなのか全く見当がつかなかった。

Wikipediaによると「電子タバコ」とは、『煙の代わりに少量の蒸気を吸引する、たばこに似せた吸引器』とある。火気を使用しない、燃焼に伴うタールや一酸化炭素も発生しない、先端から副流煙も出ないタバコの代替製品だそうだ。公共の場所での使用は禁止されていないが、周囲の人に誤解を与える恐れがあるために、そのような場所での使用は控えるよう取扱説明書には記載されているという。

私が見たポスターにも、他の乗客に誤解を与え、不要なトラブルの原因になるので使用を制限する旨が記載されていた。JR北海道は2009年4月に「電子タバコ」の使用制限に関する広報を出しており、航空会社でも同様の取り扱いとなっている。また、最近の報道によると、フランスの保健相が公共の場所での「電子タバコ」の使用禁止の方針を打ち出している(ロイター通信6月3日)。

日本の2012年現在の喫煙率は、男性32.7%、女性10.4%と男性の低下傾向が著しいが、1970年代頃までは成人男性の約8割が喫煙者だった。当時は職場やレストラン、家庭、長距離電車、航空機など、多くの場所で喫煙が可能だった。旅の列車のボックスシートに座った人たちが、『ちょっと、火を貸してもらえませんか』『一本、いかがですか』などと、タバコが会話のきっかけとなることもあった。

近年でも、喫煙場所がほとんどなくなったオフィスで、喫煙者同士が喫煙所に集まって話している光景をよく見かける。異なる部署の人間が世代を超えて会話を交わすこともある。私は嫌煙派であり、今日でもタバコが有効なコミュニケーションツールだと主張するつもりは全くないが、タバコにはコミュニケーションのきっかけづくりや会話の触媒という面があったことは事実だと思う。

タバコは嗜好品として長い歴史と文化を有し、単なる電子製品である「電子タバコ」がそれに取って代わることは到底無理だろう。健康にとって「百害あって一利なし」と言われるタバコだが、本人や周囲の人に全く健康被害を与えず、対面コミュニケーション機能だけを残すことができれば、社会的孤立深まる現代社会における人と人とのつながりつくる一助となるのだが、それは過剰な期待だろうか。高度情報社会を構築するICT(情報通信技術)がもたらすソーシャルネットワークも、タバコにみられたような現実の対面コミュニケーション文化を創造できるかどうかは、依然として煙の中である。




 
   電子タバコは他人や自分自身の健康を害することはないと言われる一方、健康への影響については更なる検討が必要ともされている。また、実際の喫煙を助長し、喫煙者の誘発にもつながりかねないと懸念する声もある。

(2013年09月09日「研究員の眼」)

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