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- 少子化対策の『3本の矢』に少し注文~婚活支援を第4の矢に~
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先日、総務省が発表した人口動態調査によれば、日本の総人口は1億2639万3679人と、4年連続で減少、死亡数が出生数を上回る自然減が過去最大を更新した。労働人口も8000万人を割り込んでいる。
政府は少子化対策にも『3本の矢』として「(1)待機児童対策を含めた子育て支援(2)仕事と家庭の両立支援(3)結婚、妊娠、出産の手厚い支援策」を掲げている。育児と仕事の両立が難しいことや経済的な余裕がない、待機児童問題など、日本社会ではそれらが出生率低下の重要な原因となっているからだ。
本稿で注目したいのは“生涯未婚率”*1だ。2010年で、男性が20.14%、女性が10.61%と上昇傾向にある。この30年で未婚男性は8倍も増えている。
しかし、内閣府から平成23年3月に発表された『少子化社会に関する国際意識調査報告書』によれば、現在結婚していない理由は「適当な相手にまだめぐり会わないから」が「経済的な余裕がない」を上回りトップで、男性40.2%、女性55.2%、総数では47.2%と約5割を占める。「一生結婚するつもりはない」は3.4%に留まり、「結婚はいずれしたいけれども適当な相手がまだ見つからない」というのが実情のようだ。
気づけば自分もアラサーと呼ばれる年齢になり、同世代の友人と集まれば結婚に関する話題は必ずといっていいほどのぼる。そして、「早く結婚したい。でも、相手がいない。」と言う友人が少なからずおり、時には「いい人がいたら紹介してほしい。」と頼まれることもある。確かに未婚率が高い原因に経済的な要因があるのは理解しているが、「結婚したいけど、出会いがない。」という実情は身近な現実である。
かつて、日本ではお見合い結婚で結ばれるカップルの数が恋愛結婚組を大幅に上まわっていたが1960年代に逆転し、2010年にはお見合い結婚の数は全体の5.3%にまで落ちこんでいることも無関係ではないだろう。
近年、この“出会い”というニーズに目をつけた婚活ビジネスも広がりつつある。互いの希望する条件を満たす相手とお見合いできる結婚相談所、合コンやお見合いパーティーをセッティングしてくれる運営会社、そしてSNSやマッチング機能がある婚活サイトなど、結婚を視野に入れた人達を結びつける様々なサービスがある。婚活業界の市場規模は現在500~600億円*2。現在、結婚適齢期(20~44歳)にある独身男女は約1,800万人に対し、これまでの婚活サービスの利用者は60万人(3%)程度である。広がりをみせてきたとはいえ、まだまだ利用者は少ない。
日本と同じく少子化に悩むシンガポールでは、国策として婚活事業に取組んでおり、国営の結婚仲介サービスまである。政府が推奨する少子化対策の婚活イベントやパートナー紹介事業を行い、これらを通じ過去25年間で延べ約20万人が成婚しているという。他にも、未婚公務員が結婚や家族に関する講演の受講を義務付けるといったものまである。確かに、シンガポールの出生率*3は今のところ大きな回復には至っていないとの見方もある。しかし、国が積極的に参画していなければ、より低水準だったのではないか。
日本ではどうか。実は地方自治体では、地方人口の減少を危機と感じ、婚活支援事業に取組んでいるところもある。中でも、福井県では平成6年から婚活支援に着手。全国初となるインターネット上の交流サイトを運営し、街コンや婚活パーティーを開催している。出会いを求める未婚者のために、こうした取り組みが普及していくことが望まれる。
国もできることはないだろうか。例えば、自治体ごとの婚活支援事業の取組みを地方と都市でつなぎ、地方に結婚相手を呼ぶなど、いわば婚活Uターン、Jターン、そしてIターン事業なども検討できるのではないか。
また、インターネットを通じた婚活サイトなどでは“なりすまし”といった個人情報を虚偽に登録するものや不当に高額な請求を強いる悪質な業者も後を絶たないのも事実だ。例えば、「マル適マーク」という認証発行制度を広く普及させ、信頼性の高い運営会社を後押しできないか。「マル適マーク」は結婚相手紹介サービス業を所管する経済産業省が作成した「結婚相手紹介サービス業に関するガイドライン」を基に、第3者機関*4が結婚相談所を審査し、審査基準を満たしたところに認証発行される。つまり、法律を守って運営している安全な結婚相談所であることの証となる。
以上のように、日本でも地方自治体の取組みや婚活ビジネスの活性化に対して、支援や利用促進に向けた環境整備など、国からも参画できることがあるはずだ。もちろん、子育て世代の労働環境や子どもが安心して産める環境の改善は必要不可欠だ。それらは中長期的な目標として継続的な取組みが必要であり、より短期的には、“出会いの場を増やす”、“交際率を増やす”ことにつながる施策を検討すべきだと考える。少子高齢化を国家的危機と認識するならば、「結婚・妊娠・出産支援」の切れ目ない支援の中に、「出会い・交際」も加え、「結婚したいけど出会いがない」と嘆く未婚者に支援の手を差し伸べることは贅沢なことだろうか。
(2013年09月04日「研究員の眼」)
薮内 哲
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