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- 女性の活躍には女性の意識改革も必要?~フェイスブックCOO著「LEAN IN」で考える
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アベノミクス成長戦略で「女性の活躍」が言われる中、今年度に入り、私も「働く女性」の消費行動に注目をしている。消費行動には、おサイフ事情やライフスタイルが密接に関わるため、女性の労働状況や家族形成状況などもあわせて分析している。
「働く女性」というと、「家事・育児との両立」「ワーク・ライフ・バランス」といったキーワードがあがりがちだ。私自身も子を保育園に預ける核家族の共働き世帯者であるため、「家事・育児と仕事をどうやって両立させているのか?」という質問が投げかけられることがある。こういう時、私は答えに窮する。なぜなら、どちらも満足にできておらず、両立とはほど遠いからだ。
仕事は、基本的に17時に退社して保育園へ向かうため、就労時間は同僚たちよりかなり少ない。裁量労働制とはいえ、仕事のために割ける時間が少ないことに罪悪感を覚えることが多い。突発的なオーダーに対応しにくいし、時間外の打合せや夜の付き合いにも対応しにくい。また、一般的に日本企業の文化では、近年、長時間労働を良しとしない風潮が出てはいるものの、依然として、自身の担当業務を終えたからといって、就業時間終了と同時に大手を振って退社するという態度は取りにくく、後ろめたさを感じる方も多いのではないだろうか(とはいえ、私は比較的、割り切って退社しているのだが)。
一方、家事・育児だが、家事は今の世の中では便利な家電が多く(食洗機、ロボット掃除機、洗濯乾燥機は三種の神器だと思う)、それらを駆使して、できるだけ家の中を片づけ、育児は少ない時間を子どもと密に過ごすように心がけているが、日中の仕事の疲れ1でうまくできないことも多い。家事・育児については個人差もあり、他人と比べてどうとは言いにくいが、自分が専業主婦だったらと想像すると、もっと色々なことができていると思う。
よって、先の質問には、「両立できていないんです。日々の課題なんです。」と答えることになる。そして、両立できていない現実に少し自己嫌悪にもなる。
そんな中、日本経済新聞で働く女性に関する特集記事2を読んだ。フェイスブックCOO(最高執行責任者)のサンドバーグ氏やディー・エヌ・エー取締役の南場氏など、活躍中の女性たちが日本人女性の働き方について討論した内容をまとめたものだ。
サンドバーグ氏の発言の中に「どうやって仕事と育児を両立しているのかと聞かれるが、男性ならこんなことを聞かれない。こうした質問が女性の自信を喪失させる。女性はもっと仕事をしなくてはならない。そのためにも男性が家事を手伝う、企業がサポートするといった変化が必要。女性が活躍するために、個人が行動しなければならない。」とあった。
私は「男性ならこんなことを聞かれない」という部分に目からうろこが落ちた。確かに男性にそのような質問はしない。何より、自分自身、このような質問を受けた時に、女性だけに聞かれているということに何ら疑問を持たずに会話をしていたことに驚いた。私が鈍感なだけかもしれないが、日本では同じような感覚を持つ方も多いのではないだろうか。
この記事でサンドバーグ氏に興味を持ち、同氏の著書「LEAN IN 女性、仕事、リーダーへの意欲3」を読んだ。「LEAN IN」というのは、仕事で身を引きがちな女性たちに一歩踏み出して社会的な影響力を持つような立場になることを勧めるメッセージで、著者自身の経験を踏まえ、女性のキャリア形成について書かれている。このような類の書籍や主張は、日本人男性には敬遠されがちな印象がある。しかし、当書は「女性は大変、男性は敵」といった論調ではない。統計でとらえた事実や学説なども用いて、男性と女性では同じ行動を取っても周囲からの評価は異なることや、そもそも男性と女性では考え方が異なることなどを分析した上でアドバイスが書かれている。また、キャリア形成を指南する一方で、人生には高い地位よりもめざす価値があるものの存在も否定していない。
当書を読んで、これまで米国人女性は日本人女性と比べて進歩的な印象が強かったが、日本人女性の状況と似ている部分も多いことに驚いた。名門ハーバード・ビジネススクールの卒業生でも男女の就業率に差があり、家庭の事情により職場を去る女性も多い。また、男性と同様に出世をするためには障壁があり、また、そもそもそういうことを望まない女性も多いそうだ。米国でも男女の役割における伝統的な価値観は根深い問題のようだ。
翻って日本では、アベノミクス成長戦略「女性の活躍」のもと、いくつかの政策が議論されている。合意できるものもあれば、議論の必要を感じるものもあるが、政策の議論とともに、女性たち自身が意識を変えていく必要性も感じる。その際、男性が働き女性がサポートするという伝統的な価値観から、働き方も子育ても男女平等へという考え方へ一方向にシフトするのではなく、様々な選択を認め合うことが必要ではないだろうか。例えば、「家事・育児と仕事の両立」を女性だけの問題と思わずにパートナーと平等に分担をしてキャリア形成に励む選択がある一方で、短時間勤務などキャリア形成よりも家事・育児に重きを置いた働き方の選択や専業主婦という選択も尊重すべきだろう。
多様な価値観を認め合い、また、それが実現できる労働環境が整っていることが、真に「女性の活躍」を促すのではないだろうか。
(2013年08月06日「研究員の眼」)
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- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
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