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1.デフレ脱却の兆し
地球上で無敵だった恐竜はなぜ絶滅してしまったのか?一説によれば、それはあまりに当時の地球環境に適応していたからだという。恐竜が地球上に君臨した温暖な時代に完璧なまでに適応したものの、地球の気候が寒冷化するとそれがアダになって絶滅したというのだ。生き残るためには環境に適応することが必要だが、行き過ぎると変化に対応できずに滅んでしまう。
6月の消費者物価(全国:生鮮食品を除く)は、1年2か月ぶりに前年同月比0.4%の上昇となった。7月には、大手食品メーカーが小麦を使った製品の値上げを行っているなど、今後も物価上昇基調が続く可能性が高い。政府・日銀が目標としている消費税の影響抜きでの2%の物価上昇が実現できるには、まだ時間がかかるだろう。また物価上昇の原因が円安による輸入物価の上昇なので、必ずしも良い物価上昇の姿とは言えないが、物価が下落を続けるデフレという状況からは脱却の兆しが見えてきたと言えるだろう。
2.デフレに適応した家計
日本経済がデフレに陥る前は、家計資産の運用で財産三分割ということが良く言われた。預貯金と株、不動産の3つに財産を分割して運用するというものだ。流動性には欠けるがインフレに強く安定している不動産、安定性には問題があるが収益性と流動性が高い株、収益性に欠けインフレに弱いものの流動性は高い預貯金の3つを組み合わせて、それぞれの欠点を補うべしというものだ。
しかしデフレ下では、この考え方が通用しなかった。インフレに弱いという預貯金の欠点は物価下落下では強みになり、さらに超低金利政策のために預貯金で利子を得るということにすら意味が無くなって、現金の魅力が増した。家計の金融資産に占める現金と預貯金の割合は、バブル景気の頃は45%程度だったが、最近では54%近くもある。
預貯金の中でも比較的金利が高い定期預金の割合は、かつては家計金融資産の4割を超えていたが最近では3割を切るまでに低下し、一方、普通預金などいつでも引き出せる預金の割合が5%程度から2割を超えるまでに上昇している。家計が保有している現金(お札と硬貨)は、バブル崩壊直後の1991年度末には約18兆円だったが、2012年度末には約54兆円に達している。手元の現金を銀行預金にしてもほとんど利子が付かないので、時間外にATMで引き出して手数料を支払えば、大幅なマイナスになってしまう。手間暇かけて、わざわざ預金をする意味がほとんどなくなり、タンス預金の形で家庭内に残っている現金は大きく増加した。
日本の家計は、多額の金融資産を持ちながら、いたずらに遊ばせていると批判されるが、ある意味ではデフレという経済の状況に非常に合理的に適応していると言える。
3.転換を求められる家計
問題は、家計が長年続いたデフレに適応し過ぎているのではないかということだ。失敗の芽は過去の成功体験にあると良く言われる。現在の状況にうまく対応しているということは、環境が大きく変われば新しい環境にはより不適切な状態になるということだ。超優良企業と言われていた企業があっという間に苦境に陥るという例を我々は度々目にしてきたが、これまで成功してきた方針をうまく転換することは極めて難しいことの良い例だろう。
デフレは永久には続かない。オオカミ少年のようになるかも知れないが、物価が上昇し金利が高くなるという経済状況への対応についても、家計はそろそろ真剣に考えるべき時だと考える。
(2013年07月31日「エコノミストの眼」)
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