コラム
2013年05月22日

教育改革「アベデュケーション」~「大学入試へのTOEFL導入」で揺れる日本の英語教育

押久保 直也

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安倍政権は3本の矢((1)大胆な金融政策、(2)機動的な財政政策、(3)民間投資を喚起する成長戦略)を柱とした経済政策「アベノミクス」を打ち出した。そのうちの一つである成長戦略の具体的な提案として、自民党の教育再生実行本部は、4月8日、国の国際競争力を高めるため、グローバル人材育成を目的とした「大学入試へのTOEFL導入」を提言した。
  果たして、大学入試へTOEFLを導入することは、日本人全体の英語力を底上げし、また将来の日本を担うグローバル人材の育成につながるのであろうか。

TOEFL(Test of English as a Foreign Language)とは、米国はじめ英語圏の大学や大学院に入学を希望する非英語話者の英語力を測る120点満点の試験である。一般に日本の大学入試は「読む」の試験であるが、TOEFLでは、「読む」「聞く」「話す」「書く」の4つの技能が総合的に測定され、中には英検1級より難易度の高い問題も多数含まれている。TOEFLにおける日本の平均点はOECD加盟34カ国中最下位であり、同じアジアの中国、韓国をも下回るという厳しい結果となっている(図表1)。
  そのように日本の海外留学を目指している人材をもってしても高得点を獲得するのに苦労しているのが現実である。このTOEFLを、大学入試で一般的な高校生に課すことは、あまりにも高い難易度ゆえ、逆に英語嫌いの数を増やすことにもなり兼ねないといった懸念があり、元々目指していることとは逆の結果につながることもありえる。さらに、全国の中高にTOEFL対策を教えることが出来るレベルの英語教師を用意することは容易なことではないだろう。

ただし、「大学入試へのTOEFL導入」という提言の狙いである「読む」に偏っていた日本の英語教育を「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能を高める方向性に変革していくこと自体は、日本人全体の英語力の底上げを図り、今後実用的に英語を使いこなせるグローバル人材を育成する上で重要である。
  香川真司(マンチェスターU)やイチロー(ヤンキース)など世界で活躍する一流スポーツ選手を見てみると、彼らが世界的なスーパースターへと成長した秘訣は、一番は並々ならぬ自助努力によるものであろうが、幼少期からの恵まれたスポーツ環境による部分がある。才能を開花させるためには、その環境を整備することが必要なのである。
  英語教育もスポーツ同様に、興味関心を持った人が自主的に学び、成長していけるような環境を整備することが一番大切だろう。その方策の一つとして、小学校から「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能を高めていく総合的な英語教育を実施し、その成果を試すために大学入試に適切な難易度の総合的な英語テストを導入することが、日本人全体の英語力の底上げを図る上で、効果的であろう。
  更に、多数のグローバル人材輩出に成功している韓国の大元外国語高校や民族史観高校などを参考に、日本にも世界のトップ大学に進学できるコミュニケーション能力・論理的思考力を備える人材を養成する「グローバル・リーディング・ハイスクール」を設立することなども必要ではなかろうか。


主要国別TOEFL平均点(2012年)





 
 SAT(米国の大学進学に必要な試験)の平均点が世界トップを誇っており、毎年多数のアイビーリーグ(世界屈指の名門私立大学8校)合格者を輩出している

(2013年05月22日「研究員の眼」)

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押久保 直也 (おしくぼ なおや)

研究・専門分野
日本経済、財政

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