コラム
2013年04月30日

TPPに対する誤解 -欠かせない内需の拡大

櫨(はじ) 浩一

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1.加速するTPP交渉の動き

安倍総理は、去る3月15日に記者会見を開き、TPP(環太平洋経済連携協定)に向けた交渉への参加を正式に表明した。これによって、これまで足踏みを続けていた交渉の動きは一気に加速している。現在交渉に参加している米国などの国々は、4月20日にインドネシアで開催された閣僚会合で日本の交渉参加を正式に承認し、これを受けて米オバマ政権は、日本との交渉を開始すると議会側に正式に通知した。
   日本国内では、TPPへの参加によって輸入が増えて大きな影響を受けると予想される農業分野では、これまで絶対反対と言うだけだったが、TPPへの参加を前提として、どのような対策をとるべきかという議論も始まった。


2.注目すべき政府試算の中身

安倍総理の交渉参加表明と同時に政府が発表したTPPの経済効果に関する試算では、参加によって日本経済を3.2兆円、GDP比で0.66%押し上げる効果があるとされている。約3兆円という経済効果に対しては、小さすぎるのではないかという声もあれば、大きすぎるという批判もあるが、ここで注目したいのは金額の大小ではなく、効果の中身である。

TPPの経済効果(内閣府試算) 

TPPへの参加で関税の引き下げや貿易に対する障壁の撤廃が起こるから、それよって日本の輸出が大きく伸びて外需が拡大し、大きな経済効果があると思っている人が多いだろう。しかし政府試算では、日本の輸出増加が2.6兆円と見込まれているのに対して、輸入の増加は2.9兆円となっている。輸入の増加が輸出の増加を上回っており、外需は0.3兆円に過ぎないが多くの人の想像とは逆に減少すると見込まれているのだ。
   TPPに参加することによる経済効果が3兆円という大幅なプラスになっているのは、消費が3兆円、投資が0.5兆円増加するという国内需要の増加3.5兆円によってもたらされている結果なのである。


3.カギを握る内需

「今後人口が減少を続けると予想される日本では国内需要で経済成長することは不可能で、成長著しい新興国の需要を取り入れることが不可欠だ」と言われることが良くある。国内需要が増えないのだから、輸出を増やすことでしか、日本経済は成長できないという見方をする人は少なくない。新興国への輸出だけでなく、交渉が進みつつあるTPPに参加しなければ、日本から米国などTPP参加国への輸出が打撃を受けるという不安も、TPP参加を後押しする力になったことは否定できない。
   しかし、TPPへの参加で外需はむしろ減少するという政府試算は、日本の経済成長のために外需を取り入れるということの意味が、国内需要の不足を補うということではないことを端的に表している。輸出の増加は日本の国内経済を刺激するためのきっかけに過ぎない。
   今後のTPPへの参加交渉では、各国それぞれの国益をかけた厳しい攻防が続くだろう。しかし、その結果としてどこかの国だけが大きく利益を得るということにはならないはずだ。日本が不利にならないようにしっかり交渉して欲しいと思うが、逆に日本に著しく有利な結果ということもあり得ない。TPPへ参加さえすればすべてうまくいくという安易な考えでは、せっかくの機会を日本は生かすことができない恐れがある。TPPへの参加交渉を真に意義あるものにするには、最終的には日本の国内需要をどうやって拡大させることができるかが課題だということをもう一度皆が思い起こす必要があると考える。

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