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- 英国サッチャー首相の時代、そして今~当時の世界の指導者が成し遂げたこと
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4月17日に英国のサッチャー元首相(4月8日没)の葬儀がロンドンのセントポール大聖堂で営まれた。34年前の1979年5月に英国保守党党首から首相に就任し、競争原理の導入・「小さな政府」を標榜。民営化や金融ビックバン「取引所の大改革」(サッチャリズム)を実現して英国病と言われた経済停滞を打破した。また、ソ連との冷戦を融和させる道筋をつけた外交などその功績は今日でも高く評価されている。
○世界を変える指導者が続々登場
振り返ってみると、サッチャー首相誕生に前後して、国と世界を変える指導者が続々登場した時代でもある。
・1978年12月、中国で鄧小平氏が復活(改革開放路線、市場経済への移行・先富論)
・1981年1月、米国でレーガン大統領就任(小さな政府、規制緩和・減税等レーガノミクス、冷戦終結)
・1982年11月、日本で中曽根首相就任(民営化、金融・資本市場の自由化・国際化)
・1985年3月、ソ連でゴルバチョフ共産党書記長就任(政治的・経済的自由化、情報公開)
役者は揃った。
○規制緩和、金融・資本市場の自由化、冷戦終焉と市場開放がグローバル化を促進
1980年、米国で金融制度改革法が成立し、金利の自由化、金融取引の多様化といういわゆる「金融革命」が起こった。1983年には日米「円・ドル委員会」に波及し、日本の金融・証券市場、為替取引の自由化がスタートした。そして、1986年に英国の金融ビックバン(証券市場の自由化)が続いた。
また、世界の政治体制も大きく変わった。
1989年10月、冷戦の象徴であった東西ドイツに立ちはだかるベルリンの壁が崩壊し、同年12月にはマルタ島でソ連ゴルバチョフ書記長と米国ブッシュ大統領間で「冷戦終結」を宣言。1991年12月ゴルバチョフの書記長の辞任とともに共産主義国ソ連が解体し、第二次世界大戦後の対立構造が消滅した。漸く、世界が一つに向かい始めた。
小さな政府と規制緩和、金融・資本市場の自由化、東西冷戦の終焉と市場開放は、国と世界を変え、世界の流動性を高めた。ヒト、モノ、マネーが世界を自由に動くことができるグローバル化が進み、これが、その後、発展途上国が成長する原動力の一つになった。
さらに、マイクロソフトのWindows、インターネットの普及がグローバル化の流れに拍車をかけた。
○グローバル化は発展途上国の経済発展につながり、南北問題の是正が進行
金融・資本市場の自由化及び東西冷戦の終焉は、発展途上国にとって市場開放や資本取引規制の緩和圧力になったが、これは投資を受け入れる大きなチャンスでもあった。勿論、数々の通貨危機や経済危機が発生したが、発展途上国の経済発展は、中国、NIEs、ASEAN、中国を含むBRICsと広がり、先進国と発展途上国間のいわゆる「経済格差」「内外価格差」「賃金格差」の是正が着実に進んでいる。
一方、先進国にとって、格差の是正は、発展途上国への生産シフト、発展途上国からの輸入の増加などからデフレ要因の一つとなり、中でも円高が伴った日本はその圧力を最も被ったといえる。
○異次元の金融緩和のゆくえは
格差の是正が進行する中、先進国は様々な課題に直面し、低成長、高失業に喘いでいる。
それらへの対策のひとつとして、米国バーナンキFRB議長(2006年2月~)、EUのドラギECB総裁(2011年11月~)は資産買取りによる過去最大の量的緩和策を打ち、日本の黒田日銀総裁(2013年3月~)はデフレ脱却に向け、2%のインフレ目標と欧米を上回る「異次元」の量的緩和策を打っている。
しかし、格差の是正、すなわち南北問題の解消が道半ばだとすると、中央銀行による大量のマネー供給は、しっかりした成長戦略がないと単に潜在成長率が高く収益性の高い市場、つまり発展途上国に流れ出るだけに終わる可能性が高い。
先進国の金融緩和は、勿論、自国経済の成長を狙ったものである。副次的に生まれる発展途上国へのリスクマネーの提供を促進しているというプラス効果だけでは意図した成果には及ばない。先進国内の内需拡大への取り組みとともに、発展途上国へ関与を深め、ともに成長する戦略もこれまで以上に求められるのではなかろうか。
(2013年04月26日「研究員の眼」)
谷本 忠和
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