コラム
2013年10月31日

観光業に目を向けよう ~財政危機緩和の一翼を担うかも?

谷本 忠和

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2014年度税制改正要望に、国土交通省から「外国旅行者向け消費税免税制度に係る対象品目の拡大等及び手続きの簡素化」が盛り込まれました。免税品を増やし世界の観光需要を取り込むことにより、地域経済の活性化、雇用機会の増大につなぐことがその狙いです。
   この観光業が日本の財政危機緩和の一翼を担うかもしれません。

「財政問題は晴れません」
   今年も残り2ヶ月となりました。2013年は、安倍政権の下で円安が進行し、株価は大きく上昇しました。景況感が改善し、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催が決定するなど、日本にとっては、リーマンショック以降、久々に明るい年になりそうです。
   しかし、国の財政は悪化の一途を辿っており、来春の消費税率引上げが決まりましたが、2020年目標の「基礎的財政収支の均衡」*1はまだ遠く、緒に就いたばかりです。

「リーマンショック後、欧州で起こったこと」
   欧州ではPIGS、すなわち、ポルトガル、アイルランド、ギリシャ、スペインが、財政危機に陥り、資金調達難、金利の急上昇というマーケットの厳しい洗礼を浴びました。財政破綻、財政危機は、先進国でも起こりうるということです。IMFやEUから金融支援を受ける一方、行き着くところは財政の緊縮と国民生活への圧迫です。各国は今も尚、財政の健全化と景気後退による失業対策に追われています。
   それらの国々に共通していることは、「財政収支」と「経常収支」の双方が赤字という点です。

「実は、日本の財政破綻は近いと言われて久しい」
   無理もありません。日本のバブル崩壊以降、財政は急激に悪化し、国の対GDP比債務は、1997年に100%を超え、2012年末には同228%に達しました。OECDのデータベースでは世界第1位の水準です。(図表1)しかも、先進国で唯一の「超高齢社会」においてです*2
   因みに、アメリカは同110%、ドイツは同85%。PIGSで最悪のギリシャでさえ同189%と、この指標については日本より健全です。(一般政府ベース、出所:OECD)

「日本の国債は、国内で消化されているから大丈夫」
   確かに海外投資家の日本国債の保有占率は数パーセントに過ぎません。日本国の債務は1,126兆円に達していますが、住宅ローン等の債務を除く個人金融純資産は2013年6月末で1,234兆円に上り、他に企業が現預金を220兆円保有しています。(出所:日銀) しかも、日本は経常黒字国であり、国全体では海外からの資金調達の必要がありません*3

「その経常黒字が危ない」
   日本はPIGS各国とは異なり、経常黒字国です。日本経済は、1960年代の高度成長期に米国向けの輸出が増大し、「貿易黒字」・「経常黒字」が定着しました。その黒字に伴う対外投資の増大(=資本収支は赤字)から利息・配当収入が増加し、「所得収支」も黒字が定着しています。「サービス収支」の一つである「特許収支」も2002年から黒字が定着しました。日本は、デフレ時代を含めて着実に外貨を稼ぎ、それを海外に投資し、対外資産を積み上げてきたのです。
   その結果、2012年末の対外資産残高は661兆円まで積み上がり、対外純資産は296兆円、2012年度の所得収支は約15兆円の黒字となっています。(出所:財務省)*4対外純資産の世界第2位は中国で150兆円、第3位はドイツで121兆円、日本は両国を大きく引き離しています。(出所:IMF統計)
   日本は先述のとおり対GDP比で世界最大の財政赤字を抱えていますが、対外純資産規模も世界第1位なのです。
   しかし、この構造に変化がみられます。2011年3月の大震災以降、エネルギー輸入量の拡大や円安から輸入額が増大し、2011年度から貿易赤字が続いています。その上、円安が進んでも期待の輸出が冴えません。今後、「経常赤字」に陥ることになると海外からの資金調達(=資本収支は黒字)が必要になりますが、既に超高齢社会に突入し、「経常赤字」に転落した日本の国債等を海外投資家が購入するでしょうか。

「観光業が財政危機を緩和?」
   経常黒字の確保には、産業競争力の向上が重要な要素であることに変わりはありません。
   現実は、日本企業の海外現地生産比率が年々上昇し、小売りなどの業種も海外に進出するなど海外シフトが鮮明になっています。(図表2) 輸出拡大による貿易黒字経済の復活が難しいとなると、外貨を稼ぐ他の方法はないかとなります。その柱の一つとして、政府、観光庁が推進している「外国人訪問者の拡大」があります。日本には、世界遺産(登録数17:世界第13位)を含む豊富な観光資源と「お・も・て・な・し」の心があるからです。
   外国人訪問者数の世界第1位はフランスで年間8,301万人(2012年)が訪問、国際観光収入は約5.4兆円(2011年)になります。一方、日本への外国人訪問者数は世界第33位で同836万人(2012年)、国際観光収入は約1.1兆円(2011年)に留まります。訪問者数の彼我の差は極めて大きいのです。世界全体の国際観光客は、2012年に初めて10億人を突破し、引続き3~4%の堅調な増加が見込まれています。言い換えれば、それだけ日本の観光拡大の「糊代」が大きいともいえます。(出所:観光庁)
   そのためには、政府が掲げる2013年1000万人の達成、更に2000万人の高みの目標に向けて、観光立国推進閣僚会議がまとめた「アクション・プログラム」の執行を加速し、ヒト・モノへの投資と規制緩和を推し進めるべきではないでしょうか。2020年東京オリンピック・パラリンピック開催はその起爆剤となります。この千載一遇のチャンスを活かすことが日本全体の活性化につながると思います。


政府債務残高の推移(対名目GDP)/製造業の海外現地生産比率の推移



 
 *1 税など本来の収入で国民のための支出がまかなえる状態
 *2 超高齢社会とは65歳以上の高齢者が人口の21%を超えた社会(2012年23%)
 *3 国際収支(均衡)=経常収支(黒字)+資本収支(赤字)+誤差脱漏
 *4 2012年度経常収支(+4.4兆円)=貿易収支(▲6.9)+サービス収支(▲2.5)+所得収支(+14.7)+経常収支移転(▲1.0)

(2013年10月31日「研究員の眼」)

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