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- 変化する不動産ビジネス -5年前と現在、そして5年後
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5年前の不動産ブーム(2006~2008年)1の時には、ほとんど存在しなかった、あるいは注目を浴びていなかったが、いまや当たり前になった不動産商品や不動産関連の動きがいくつもある。免震構造のマンションや電気代を安くできる仕組みのマンション、太陽光発電などで実現したゼロエネルギー住宅、将来の二世帯化や定年後の安定収入を見据えた都市部の自宅併用賃貸住宅、買い手の好みにあった内装や間取りに自由に改修する中古マンションのリノベーション、平面移動で暮らせる平屋タイプの注文住宅、介護サービス付高齢者賃貸住宅などだ。BCP対策や省エネ対策の進んだオフィスビルは新築では当たり前になり、高層ビルの解体工事も次々と動き出した。また、シニア層などの観光利用の増加を背景に、温泉大浴場付き宿泊特化型ビジネスホテルが一般的になった。3PL2市場やネット通販市場の拡大で不動産セクターとしての地位を確立した大型物流施設も、前回ブーム時には目立たなかった。アジアでの不動産事業や私募REITも、5年前にはなかった新しい動きだ。
また、ハードの価値と同時にソフトやサービスの価値も訴求する不動産ビジネスが増えていることも最近の特徴だ。たとえば、免震構造や備蓄倉庫などのハードと、マンションコミュニティによる危機管理対応というソフトの両面で防災機能を高めた分譲マンションだ。また、マンション管理会社による、部屋のリフォームや修繕、見守りなど各種の専有部向けサービスも増えている。子育て支援の仕組みも、間取りの工夫にマンションコミュニティという視点が加わるようになった。シェアオフィス(共有型賃貸オフィス)やシェアハウス(共有型賃貸住宅)では、単なる場所貸しではなく、事業者が生活やビジネスのコミュニティづくりにも積極的に関与する取組みが目立つ3。オペレーショナル・アセット化した東京の最上位クラスのオフィスビルも、立地や構造・設備などビルそのものの商品性だけでなく、営業力や提案力、運営力など事業者の総合力が問われているという点で同様だ4。
では、今は一部の動きにすぎないものでも、5年もすれば当たり前になっているものは何だろうか。まず、新築のオフィスビルや住宅では、照度センサーで自動調光できるLEDの天井照明、断熱性能の高い複層ガラスを採用した窓が標準装備5になっているはずだ。また、太陽光発電や蓄電装置の高機能・低価格とエネルギー管理システムの普及で、あらゆる不動産のスマート化がかなり進んでいるだろう。J-REIT(不動産投信)や私募ファンド、機関投資家の保有物件のほとんどが、建築物のサステナビリティを評価する「グリーンビルディング認証」を取得していてもおかしくない6。当然、エネルギー使用状況の見える化(可視化)などで、ビル管理の透明度も高まっているだろう7。総合的な住まい相談窓口(住宅関連サービスのワンストップ化)も、顧客の支持を受けてリアル、ネット店舗ともに一般化しているのではないか。分譲マンションの区分所有権を取得する海外投資家の増加、シニア層の住み替え8などに伴う賃貸化、住民の高齢化など、さまざまな問題に対処できる高度な管理の仕組みも必然といえる。グローバルな不動産事業も一分野として定着し、海外赴任や外国人社員が珍しくなくなっている・・・。
一時的な流行り廃りの予測は難しいが、経済活動や暮らしの基盤を提供する不動産ビジネスの場合、市場が普遍的に求めているハードやサービスのトレンドに大きなぶれはないと思われる。少子高齢化やグローバル化など需要構造が大きく変化する中で、不動産ビジネスは顧客本位の姿勢を強めて着実に進化していることは間違いない。一時的なブームに浮かれることなく、住宅・不動産の買い手や借り手と真摯に向き合って新たな知恵や解決策を出していけば、都市基盤産業や生活提案産業、あるいは環境エネルギー産業としてのフロンティアが広がっていくはずだ9。残る課題は、既存のオフィスビルや住宅ストックの機能更新が、新築同様のスピード感を持って進むかどうかだ。その意味で、都市再開発事業や中古住宅のリノベーション事業、ビルや住宅の用途転換、省エネ改修など不動産ストックビジネスは重要なテーマといえる。しかし、市場原理だけで膨大なストックを再生するのには限界があり、エコポイントや耐震改修費補助など国や地方自治体による政策誘導が欠かせない。
(2013年04月10日「研究員の眼」)
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