2012年09月25日

少子高齢化時代の不動産ビジネス・フロンティア

松村 徹

竹内 一雅

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

増宮 守

文字サイズ

少子高齢化の不動産市場への影響

  • 住宅市場では、年間100万戸を超えていた新設住宅着工戸数が、金融危機が拡大した2009年以降80万戸台で推移している。今後も、少子高齢化の進展による住宅需要の縮小や住宅ストックと空き家の増加傾向から、年間100万戸台への復帰は難しいだろう。また、高齢化した区分所有権者が多く、建替えの合意形成が難しい高齢化マンションの増加も大きな課題である。
  • オフィス市場では、東京のオフィスワーカー数が2015年をピークに減少に転じると予測される。東京はアジアの大都市と有力企業を奪い合っており、日本の経済的地位の低下が続けば、国内オフィス需要の縮小傾向が強まる可能性もある。一方、企業のオフィスビルに対する要求水準の高度化で、オフィスセクターは、事業者の開発力や経営力が収益に大きく影響するオペレーショナル・アセット化していくだろう。
  • 小売業は景気感応度も高く、少子高齢化など市場変化への対応は早い。しかし、長期的にみれば消費支出や小売販売額への少子高齢化の影響は楽観視できない。国内商業施設市場の競争は厳しく、施設の立地選定や施設計画、有力な借主誘致、賃貸借契約の工夫や店舗オペレーションにこれまで以上の専門能力が求められる。
  • ホテル市場は内需だけに依存しないため、少子高齢化のネガティブな影響が比較的小さい不動産セクターである。内需も団塊世代などシニア層の旅行需要の増加が期待できる上、観光立国政策が強力に推進されて海外観光客が順調に増加すれば、長期的な成長可能性は高い。
  • 物流施設市場は、少子高齢化の影響を直接受けにくい。在庫保管型の旧施設から新世代の大型施設への需要移転が進みはじめて成長余地が大きく、不動産ビジネスのフロンティアといえる。
 

既存ビジネス再構築で生まれるフロンティア(別図参照)

  • 少子高齢化の不動産市場への影響はひとくくりにはできないが、不動産ビジネスの主流であった住宅事業やオフィスビル事業では、国内市場での成長の限界が見えてきている。その意味で、生産年齢人口が増加して経済成長も著しいアジア新興国は、不動産ビジネスにおける有望なフロンティアのひとつといえる。また、国内では介護サービス付き賃貸住宅や有料老人ホームなどシニア向け不動産事業での成長が期待できる。
  • さらに、不動産市場を取り巻く外部環境の変化を少子高齢化の文脈だけで捉えるのではなく、同時進行している企業活動のグローバル化、情報ネットワークの高度化、エネルギー利用のスマート化といった動きも視野に入れて、海外、シニア、物流以外の不動産ビジネスの”新たな成長(新たな収益機会の拡大、新たな市場の形成) “可能性を考える。
 

5つのビジネス・コンセプト

 (1)「住まい」の総合サービサー
老若男女から外国人まで、日本で暮らす生活者をターゲットにした住まいに関する一元的なサービスで、一部不動産大手が取り組んでいる「ワンストップ化」の進化形である。現在も国民の持ち家志向は根強いが、新築分譲偏重のビジネスモデルだけでは市場の成長は難しい。中古住宅のリノベーションや賃貸マンション居住も普及が進んできた。建てる・買う・売る・借りる・貸す・改修する・建替える・住み替える・相続する・投資する、など「住まい」に関する多様な選択肢と専門的な助言機能を店舗やインターネット上に集約することが第一歩である。

 (2)企業のCRE戦略アドバイザー
「土地持ち企業」の不動産活用戦略に加え、企業が不動産を借りる場合のCRE戦略にも積極的に関与する。CRE戦略の目的は、企業価値向上の観点から不動産の最適な選択を行うことであり、企業が所有する不動産も賃借する不動産も、どちらも事業を行うために必要な施設であることに変わりはない。不動産に対する企業の情報収集力や分析力は高まっており、賃借への意識や行動も大きく変化している。東京のオフィスセクターがオペレーショナル・アセット化する中、不動産会社はリーシング力やグリップ力を高めるため、賃貸営業やテナント専用部サービスのあり方などを見直し、提案力の向上や管理の透明化を進める必要がある。

 (3)新ビジネス・新商品のインキュベーター
起業や商品開発を積極的に支援して、新たな不動産需要やビジネスの種を生み出す。たとえば、内外の起業家や日本進出企業、新商品を開発する企業やプランナーに、所有するビルやマンションの空室や未利用地、情報インフラを有利な条件で提供する。このとき、ソーシャルビジネスや社会起業家も対象とする。もともと不動産ビジネスは、街づくりや緑化・環境対策などを通じて地域社会に貢献するビジネスでもあるうえ、最近では子育て支援やコミュニティづくり、防災対策が付加価値的サービスとなり、ソーシャルビジネスとの親和性が強まっているためだ。

 (4)エネルギー利用のスマートマネージャー
経済・社会の節電・省エネ志向が強まる中、商業・業務用ビル、住宅から都市まで経済活動や生活の基盤を提供する不動産ビジネスは、開発物件から既存ストックまで幅広く省エネ・創エネ・蓄エネを推進することができ、成長が期待される「環境エネルギー産業」の一角を担うにふさわしい。すでに、オフィスビルや住宅におけるエネルギー使用の「見える化」、エネルギー管理システムの導入、さらにはネット・ゼロ・エネルギー建築に向けた意欲的な試みが加速度的に進んでいる。特に、地球温暖化ガス排出量で業務部門と家庭部門が3分の2近くを占め、オフィスビルや商業施設、住宅の省エネ化が都市全体のスマート化に直結する東京は、このビジネスの主戦場となろう。また、エネルギーや自動車、家電、情報通信など異業種との連携も不可欠である。

 (5)不動産長期運用のマルチマネージャー
不動産会社は、開発から管理、売買、建替え・再開発まで長期にわたる不動産事業サイクルのあらゆる局面に対応できる専門家として、J-REITや私募ファンド、私募REITなどの運用をより洗練して資産規模や収益機会の拡大を目指すべきだ。特にJ-REITは、国債や株式より高くて安定したインカム収入が長期間にわたって期待できることから、年金だけでは足りない老後の生活資金を穴埋めするのに適した個人向け金融商品である。また、エネルギー事業や交通基盤など長期的な運用を求められるインフラファンドへも運用対象を拡大したい。投資資金はボーダレスに動くことから”良い不動産金融商品”は国内の少子高齢化の影響を受けにくい、という利点を活かせるよう、運用の洗練と資産規模の拡大によって内外の投資家の信任を高めることが重要だ。



 
40173_ext_15_1.jpg
Xでシェアする Facebookでシェアする

松村 徹

竹内 一雅

金融研究部

岩佐 浩人
(いわさ ひろと)

増宮 守

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【少子高齢化時代の不動産ビジネス・フロンティア】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

少子高齢化時代の不動産ビジネス・フロンティアのレポート Topへ