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東京都心3区のオフィス賃料インデックスは2012年末まで低下が続いているが、最上位のAクラスビルでは、2012年第4四半期に前年より大幅に上昇して、市場の二極化が鮮明になっている1。マスコミが「2012年問題」と囃した集中的なオフィスビル供給はようやく峠を越え、2013年の都心3区での供給量は半減する見通しだ2。景気も回復軌道に乗りつつあるため、オフィス市況全体も徐々に改善に向かうものと期待できる。ただし、2014年以降は、オフィスビルの供給量が再び増加する点に留意すべきだ。現時点で判明しているだけでも、延床面積16万m2の丸の内ビルディングと同規模以上のビルが、2018年までに15棟は計画されており、そのほとんどが東京駅周辺を中心とする都心3区内だ。また、大規模ビルのように注目されることは多くないが、延床面積が1万m2に満たない中規模ビルでも、高い耐震性能に最新の省エネ性能やセキュリティシテムを取り入れたビルの建設が相次いでいる。
これまで、経済紙やビジネス誌がオフィス市況を取り上げるとき、供給過剰で市場の需給バランスが崩れることを問題視3したり、ビル事業の生き残りを賭けた熾烈な競争に焦点を当てたりすることはあっても、ビルの顧客である企業の視点から論評されることはほとんどなかった。当たり前だが、オフィスの利用者である企業からみれば、賃貸市況の「悪化」は賃借市況の「改善」である。新規供給の増加と競争の激化は、これまで以上に機能的で省エネ、安全・安心なオフィスビルの選択肢が増え、また有利な条件で賃借できる機会が増えることを意味するからだ。新築ビルとの競争にさらされる既存ビルにおいても、設備機能やサービスの底上げ、賃料の引き下げが期待できる。「2012年問題」のおかげで、耐震性に懸念のある自社ビルから、BCP(事業継続計画)面に優れた賃貸オフィスビルに移転できた企業は少なくないはずだ。また、長期投資を行う不動産投資家にとっても、需給緩和による空室率の上昇や賃料の下落で一時的にキャッシュフローが弱含むリスクはあっても、首都直下型地震の発生リスクを抱える東京で、災害リスクの低い投資適格ビルが増加することは望ましいといえるだろう。
長年慣れ親しんだビルから最新鋭のビルに移転した企業は、新しいビルの機能性や快適性、セキュリティシステムなどのあまりの進化に一様に驚くという。残念ながら、東日本大震災後高まったBCPや省エネなど、企業の切実なニーズに適切に対応できている既存ビルは多くない。道路や港湾施設などのインフラと同様、老朽化したオフィスビルストックの耐震化や省エネ化の必要性が高まる中4、オフィスビルの建て替えや再開発、既存ビルの大規模改修を積極的に進める不動産デベロッパーは、高度化する顧客の要求水準に対応できる商品を提供することで、社会貢献も同時に行っていると言ってもいい。もちろん、新規ビル供給が続けば優良ビル間の競争も激化し、当初見込んでいた賃料収入の確保が難しくなる局面も懸念される。しかし、競争はビル事業をさらに進化させることや、グローバルな競争を戦う企業に世界最高水準のスペックを持つオフィスを提供していることをもっと評価してもいいのではないだろうか。
ただ、今後のオフィスビル建設にひとつだけ注文をつけるとすれば、デザインの力でビルや街の魅力をさらに高めることができないか、ということだ。Tokyoのオフィスビルは、シンガポールや香港などアジアのライバル都市に対して、施工精度や耐震性能、環境配慮、維持管理技術の高さは十分アピールできるが5、デザインについては無難な(驚きのない)ものが多いように感じる。たとえば、夜景の写真だけで判別できる高層ビルがどれだけあるかを考えてみてほしい。もっとも、黒い外壁のビルが区の景観条例で建てられなかったり、赤い外壁を問題視する近隣住民がいたり、断熱性に優れても濃い色付きのガラス窓を嫌うテナントがいたりなど、建築主側の問題だけではないことは承知している。しかし、「上海環球金融中心」やシンガポールの「リフレクションズ・アット・ケッペルベイ」、「マリーナベイ・サンズ」6のように、記憶に残るデザインのビル達にもっと出会いたいと思うのはぜいたくな望みだろうか。Tokyoはアジア有数のビジネスセンターであると同時に一大観光地の顔も持っているだけに7、不動産デベロッパーのチャレンジ精神に期待したい。
(2013年03月27日「研究員の眼」)
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