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まちづくり条例の魂を受け継ぐ ~復興過程のまちづくりに神戸市まちづくり条例が果たした役割に学ぶ~
                                                社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎
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神戸市まちづくり条例は、1981年に日本で最初のまちづくり条例として制定された。住民の意向を調整する場としての「協議会方式」とそれを提案し、公共化する「まちづくり提案」制度は、条例制定の背景となった真野地区のまちづくりと共に、住民主体のまちづくりの推進に不可欠な制度として、都市計画やまちづくりを学ぶ人間は必ず眼を通す事例である。
東日本大震災の直前の2011年1月に神戸市が公表した「阪神・淡路大震災の概要及び復興」1には、復興過程のまちづくりにおいて、まちづくり条例が重要な役割を果たしたことが詳細に示されている。その結びには、「神戸市まちづくり条例」の存在価値と題して、次のような結論が示されている。
『震災復興における「2段階都市計画」の第2段階に不可欠な住民の主体的な活動を、条例では「まちづくり協議会」による「まちづくり提案」という手続きを示すことで、住民側に具体的な目標を与えることができた。さらに、協議会の成立要件や活動の範囲を厳格に条文等で規定していなかったことが、協議会の様々な形態を創造させ、独自性の高い活動を可能にした2。それは、画一性を除去し、協議会の位置づけから行政の下部機関の性格を打ち消すことにもなった。さらに、包括的な「まちづくり提案」制度の存在と市長の責務を明記していたことで、住民側も義務や負担の理解を進め、住民の主体性を発揮させる仕組みを提供することとなった。
   また、協議会のリーダーにとっては、条例の内容を詳細に理解し、運用する必要はなかった。単に、条例に基づく「まちづくり協議会」と「まちづくり提案」のプロセスに沿った手続きを進めることで、条例の「触媒」としての機能が働き、行政との協働の歩調がとれ、住民主体型のまちづくりの精神を発揚させることができた。
   まさに、条例制定時に「まちづくり条例」は精神規定を重視して包括的につくられていたため、震災復興まちづくりの「2段階都市計画」の進め方と、運命的に符合することができた。
   結論として、「神戸市まちづくり条例」が震災前から存在したことで、住民・専門家・行政が同じレベルの目線で立つことができ、相互理解を図り、まちづくり協議会の活動を補完し、住民主体型の協働のまちづくりを実現できたことをまとめとしたい。』
引用文中の「2段階都市計画」とは、震災復興土地区画整理事業について、施行区域と骨格となる都市施設を第1段階で都市計画決定し、住民に身近な生活道路や街区公園等については、住民の要望や意見を踏まえて協議を行いながら第2段階として都市計画決定を行う方式である。引用文は、第2段階の都市計画決定に至る過程で、まちづくり条例が有効に機能したことを明確に伝えている。
神戸市の協議会方式とまちづくり提案制度は住民が理解しやすいシンプルなもので、次のように進められる。地区の課題を解決し、より良いまちにしたいと思う人が集まってまちづくりの検討組織を結成する。その中でまちづくりを検討し「まちづくり構想」をまとめる。まちづくり組織は「まちづくり協議会」として市長の認定を受ける。認定まちづくり協議会は、まちづくり構想を市長に「まちづくり提案」する。市長は、市が実施するまちづくりにおいて、まちづくり提案に配慮する。
まちづくり協議会の認定要件では、協議会の構成員を、「住民等、まちづくりについて経験を有する者その他これらに準ずる者」としており、地権者であることや住民票を有する市民といった規定はしていない。そこに住んでいるか、働いているか、もしくはまちづくりの専門家であれば構成員になれる点で、参加の枠組みは緩やかと言える。
また、まちづくり協議会は「地区の住民等の大多数により設置されていると認められるもの」であり、「その活動が、地区の住民等の大多数の支持を得ていると認められるもの」と規定している。つまり、地区に唯一の、大多数が支持する協議会が策定したまちづくり構想でなければ、まちづくり提案できないのである。
ただし、「大多数」について、例えば土地所有者の1/2以上といった数値で測る明確な規定はない。実際には、まちづくり構想に対する意見募集の結果反対意見が出されていない、アンケート調査によってほとんどが同意しているといった状況から判断することになるであろう。したがって必然的にすべての関係者の合意を得ることが目標となろう。つまり、まちづくり提案するまでの検討過程の中で、地区のすべての関係者が参加し、合意を図るための努力が欠かせないのである。この努力こそが検討内容を収斂させるとともに、地区のまちづくりを推進する責任ある主体に育んでいくのである。
一方、参加の枠組みが緩やかで、認定要件が厳格でないことは、地区特性に応じたまちづくり活動を柔軟に受け止めるのに役立ち、結果として地区ごとに独自性の高いまちづくり活動が展開されることになる。これこそが、住民主体のまちづくりを推進するための、まちづくり条例の魂と言える部分であり、魂を宿すためには厳格な規定によるハードルは極力避けるべきなのである。
東日本大震災を経験し、改めて地域力を高めて自立的な地域社会を構築することが求められる中、全国的にまちづくりのあり方やその方法論の見直しが必要になっている。阪神・淡路大震災の復興過程におけるまちづくりに学ぶところはまだまだ多いはずである。是非とも多くの自治体で、このまちづくり条例の魂を受け継いでいってほしい。
(2013年03月11日「研究員の眼」)
                                        03-3512-1814
- 【職歴】
1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
2004年 ニッセイ基礎研究所
2020年より現職
・技術士(建設部門、都市及び地方計画)
【加入団体等】
・我孫子市都市計画審議会委員
・日本建築学会
・日本都市計画学会 
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