コラム
2013年03月04日

減災まちづくりを普及させるために~減災の柱の一つ、住民の共助を促す住宅地開発~

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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今年、東京都立川市に減災の考え方を取り入れた住宅地が誕生する。減災の第一人者である関西大学社会安全学部の河田惠昭教授の監修の下に開発され、約1万m2の敷地に54戸の戸建住宅が建設、販売される。

ここでは、住宅そのものはもちろんのこと、まちづくりにおいても、減災の考え方を取り入れた仕掛けが多数盛り込まれている1。さらに、このプロジェクトを特徴づけているのは、入居後、自治会への参加を販売条件にしている点である。

自治会とは、既存のものではなく、新規に開発されたこの住宅地において新たに設置する自治会である。なぜ販売条件にしてまで自治会を設置するのか。減災の考え方の重要な柱に共助があるからである。防災訓練などの自治会活動を通じて、日頃から居住者同士の交流を深めながら共助の関係を築き、災害に備えることを目指しているのである。

災害時に共助の関係が重要であることは、阪神・淡路大震災の教訓である。家屋などの下敷きになった方の約8割は近隣住民などによって救出され、警察や消防が救出する場合も、周辺の人の証言が頼りになったことが伝えられている。さらに、日頃から地域活動が活発に行われていたところほど被災後の生活の適応能力が高く、生活復興度が高かったという指摘もある。

立川市の新たに開発された住宅地では、自治会への参加を販売条件にするだけでなく、販売会社が自治会の最初の立ち上げをサポートすることとなっている。これらの取り組みによって、共助を含めた災害対策に関心が高い住民を呼び込むことができ、それゆえ、新規に設置する自治会とはいえ、早期に減災に取り組む自立的なコミュニティに育っていくことが十分期待できる。

このような新たな取り組みは、公助を担う自治体にとっても望ましいものであり、民間企業がここまで踏み込んだことは、社会的にも高い意義があることと評価したい。同時に、一企業の取り組みにとどめておくべきではないと思うのである。他社の住宅地開発にも活かされるような政策を行政側が検討すべきではないだろうか。

これまでも自治体が運用する開発指導要綱の中で、開発事業者に対し、入居者へ既存の町会や自主防災組織への加入を促す努力規定を設ける例があったが、これに加えて新規住宅地内の自治会の設置や立ち上げのサポートを求める一文を加えることが考えられる。さらに踏み込めば、自治会による自主防災活動も含めた減災の考え方を開発基準化して、その基準をクリアした住宅地を減災住宅地として行政が認定することも考えられるのではないか。それが効果的であるならば、ゆくゆくはまちづくり条例の手続きの中に組み込んで、一定の義務付けを行うことも考えられる。義務付けはややハードルが高いかもしれないが、認定制度であれば住宅購入者、事業者、行政双方にとってメリットがあり、普及に弾みがつくはずである。是非とも、多くの自治体で積極的な検討と展開が行われることを期待したい。
 
1 詳しくは、積水化学工業株式会社プレスリリース http://www.sekisuiheim.com/info/press/20130110.html、もしくは拙著「大規模災害から家族を守る日本の最新住宅 常日頃のコミュニティ活動がもしもの際に最大の力を発揮する」JBpress日本の住まいを考える2013.02.08 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37057を参照。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

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