コラム
2013年02月18日

単身社会の「絆」求めて - “ファミレス時代”の家族像

土堤内 昭雄

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昨年2月から日本経済新聞夕刊に重松清さんの『ファミレス』という小説が連載されている。重松さんというと家族をテーマにした作品が多く、『ビタミンF』、『日曜日の夕刊』、『定年ゴジラ』などユニークなタイトルが並ぶ。今回の『ファミレス』はもちろん「ファミリーレストラン」のことだが、このタイトルからどのようなストーリーが展開されるのか、当初からとても楽しみだった。

この小説は二人の子どもがいる49歳の夫婦を巡る話だ。彼らは若いころ子どもを連れてファミレスの食事を楽しんだ世代だろう。辞書で「ファミリーレストラン」を調べると、『家族連れで気軽に利用できるレストラン』とある。しかし、最近は「ひとりファミレス」といわれることもあるように、ファミレスで一人で食べる「ひとりランチ」や、昼食時間帯などを過ぎると店内の大きなボックス席にひとりポツンと座って携帯電話やスマホを触っているお年寄りの姿が目立つ。

その背景には日本の世帯構成が、核家族といわれた「親と子ども」からなるファミリー世帯が減少し、高齢者を中心に単身世帯が急増していることがある。すでに東京都の平均世帯人員は2.0を下回り、2020年には全国のすべての都道府県で「一人暮らし」世帯が最も多い世帯類型になるのである。

これからの日本社会は「一人暮らし」を中心とした同居家族のいない“ファミレス時代”を迎えるのである。そんな中、近年では親族以外の人たちと一緒に暮らす「シェア居住」が拡がっている。これまでも一人暮らしのお年寄りが集まって暮らす「グループリビング」はあったが、最近では経済的にも負担が軽いことから「シェアハウス」と呼ばれる居住形態が若者の間で人気を集めている。また、世代を超えた高齢者と学生による「シェアハウス」も出現しており、「シェア居住」は様々な課題を抱えながらも“ファミレス時代”の新たな住まい方として幅広い世代に浸透しつつあるのだ。

他方で、“ファミレス時代”の背後には社会的孤立の問題が垣間見える。それは「絆」を喪失した社会であり、孤立死問題が典型だ。人は他者からの干渉を嫌いプライバシーを守りたいと思うものの、誰かとつながっていたいとも思う。「絆」とは、人の「つながり」と「束縛」の二面性を持っているが、現代人はその微妙なバランスを求めているのだ。重松さんの『ファミレス』は、ファミリー世帯全盛期の時代を生きた家族が変容しながら、“ファミレス時代”の新たな人と人との「絆」を求める人間の心模様を巧みに描いており、私には『ファミリー』という言葉がとても懐かしく温かいもののように感じられてならないのである。


 

 「シェア居住」とは、非親族である複数の居住者が台所などを共用してひとつの家に住む居住形態


(2013年02月18日「研究員の眼」)

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