2013年01月07日

消費者の節約志向が言われる中、サイフの紐をゆるめる3つの「コト」は?

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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先日、外食産業を中心に2013年の消費者動向について取材を受けた。長らく続く日本経済の低迷や金融危機などによって縮小傾向にある市場は多いが、外食市場も例外ではない。近年、居酒屋やレストランの売上高、利用客数は減少している(図1)。一方、客単価は横ばいで推移している。つまり、一度に使う額は変わらないものの、来店回数が減っているということだろう。相変わらず先の見えない経済状況に加え、政治不安、公的保障に対する不安なども膨らむ中で、消費者のサイフの紐はゆるみにくい。しかし、外食する回数を月一回だったものを二回、二回だったものを三回へと増やすことはちょっとした工夫でできるかもしれないし、単価も変えずに遣ってくれるかもしれない。
   そこで工夫できる可能性について考えてみた。3つの「コト」に注目するのである。

ここで「コト」の説明の前に1点補足をしたい。
   2000年代に入り、技術の進化によって高品質・多機能な製品があふれ、日本のモノづくり企業にとって厳しい状況が続く中、モノづくりからコトづくりへという考え方が出ている。製品(モノ)の品質だけを追求するのではなくデザインやソフト、製品に付随するサービス、ストーリー性など、消費者が1つの製品を利用する時に得る総合的な価値として捉えるべきではないかという考え方だ。これは、アップル社の製品などを思い浮かべると理解しやすいだろう。昨年、経済同友会からも「顧客価値の創造」「製造者視点からマーケット視点への転換」「製品優位性とサービスを加えた価値創造型の競争力強化」といった提言がまとめられている
   外食産業における「モノ」が料理とすると、コンビニやスーパーの惣菜やテイクアウト品の品質向上によってモノの競争は激化している。そうなると、サービスやその店の取り組み・思想への共感といった付加価値に活路があり、3つの「コト」に注目したサービス提供に可能性があるのではないかと考えた。

(1)楽しいコト
   その店へ行くと経験できる楽しさを提供する。例えば、居酒屋で初回来店時に主任の名刺を渡し、来店回数で昇格することができ、昇進祝いなどももらえるような仕組みを持つところがある。店舗内には現在、課長何名、部長何名、専務何名といった統計情報も貼りだしてある。実は通常のポイント・サービスと何ら変わりはないのだが、サラリーマン心理を何ともくすぐる上手い仕組みを作っている。特別に新しいサービスを考え出しても良いが、このように既存のサービスの視点を変えるというやり方もあるだろう。

(2)困っているコト
   今、消費者が困っていることを解決するサービスを提供する。例えば、婚活。最近、街コンとして、街ぐるみの大規模な合コンイベントが増えている。これは出会いの創出という目的のほか飲食店の販売促進、地域の活性化なども兼ねており、実は複数の困っているコトの解決策となっている。このほか、就活のセミナーを開催しながら食事を出すというサービスも考えられるだろう。また、日本人の困りごとの1つとしてメタボ人口の増加もある。1食500kcalでバランス良く満足感もある定食を出す社食から派生した飲食店などあるが、こういった切り口を参考にすることもできる。さらに日本には高齢化という大きな問題がある。高齢化がますます進行し、単身高齢世帯が増え、高齢者の孤立・孤独という問題も浮上する中では、シニア向けの朝食を出し、交流を促進する場を設けるといったサービスなども考えられるだろう。

(3)流行っているコト
   ここでは流行っているコトそのものよりも、流行っている、あるいは増えている消費スタイルに注目するとよいだろう。例えば、エシカル消費。エシカル(ethical)というのは英語で倫理的、社会貢献といった意味で、エシカル消費はエコにつながるような製品、寄付金につながるような製品を購入することを意味する。日本では東日本大震災以降、社会貢献意識が更に高まっている。よって、売上の一部は震災の復興資金につながる、あるいは環境保全につながるといった取り組みは共感も呼ぶだろうし、店舗選びに迷った時に選ばれる可能性も高い。また、孫消費というのもある。アミューズメント施設で孫の付き添いで入るシニアの入場割引などは既にあるようだが、レストランに孫と来店すると割引がある、おじいちゃん・おばあちゃんと孫のペアにはスペシャルデザートが出るというのも喜ばれるかもしれない。

以上、外食産業をきっかけに考えたことだが、これらは外食産業によらず、様々な産業で共通となりうる視点ではないだろうか。消費者の節約志向は多くの場で言われることだが、何か良い理由(イイワケ)があれば、サイフの紐が堅い消費者ばかりではない。

レストラン・居酒屋の動向


 
 公益社団法人経済同友会「世界でビジネスに勝つ『もの・ことづくり』を目指して~マーケットから見た『もの・ことづくり』の実践~」(2011/6/24)

  内閣府「社会意識に関する世論調査」

(2013年01月07日「基礎研マンスリー」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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