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- 欧州サッカーバブルは続くのか~欧州サッカー界にも忍び寄る財政問題
近年、多くの日本人サッカー選手が欧州のサッカーリーグで活躍するに伴い、日本国内でも欧州サッカーの知名度、人気が非常に高まっている。また市場規模(売上高)においても、欧州サッカー全体の市場規模が前年比で4.0%成長するなど、拡大を続けている(図表1)。「世界のスポーツチームの資産価値ランキング」においても、2012年においてトップ10に4チームがノミネートされるなど、欧州サッカーは人気のみならず、経済面からも大きな成功を収めている(図表2)。
なぜ欧州サッカーはここまでの成功を収めることが出来たのであろうか。欧州サッカー界の盟主であるマンチェスターUから、欧州サッカー界の成功の背景をみてみよう。
マンチェスターUは前シーズン(2011/7~2012/6)、総収入が3億2030万ポンド(約407億円)を記録し、直近5年間で51%も総収入を伸ばした。コマーシャル収入(スポンサー料と商品化権料)が主な収入源となっており、その背景には、世界中にファンを抱えること1を武器に、世界各国の有力企業と高額のスポンサー契約を結んでいることがある。武器となる世界中に及ぶファン基盤の拡大戦略として、(1)HPの多言語対応化、(2)世界ツアーの実施、(3)世界各国のスター選手の獲得、などを実施しており、これらがユニフォームやグッズの売上など巨額のコマーシャル収入をもたらしている。
欧州サッカー界は、上記のような取組みを通じて、「巨額のコマーシャル収入を稼ぎ、世界各国のスター選手を獲得して良い成績を残し、ファンを増やして更に収入を増やす」というサイクルを作り上げ、しかも各チームが激しく競り合うことで、ここまで巨大化したものとみられる。マンチェスターUは今年8月にニューヨークで上場するなど金融市場でもプレゼンスを高めている。
しかし、この成長はいつまで続くのであろうか。
近年、欧州サッカーの放映権取引が入札方式に変更されてから熾烈な放映権獲得競争が始まり、その結果、放映権料が高騰している。広告費の減収に悩まされている民放テレビ局は、高騰した放映権料の支払いが難しくなっているため、欧州サッカーの放送が地上波から有料チャンネル局へとシフトしている。このままでは「地上波で欧州サッカーが放映されなくなり、深刻なサッカー中継離れから、サッカー人気が下火となり、その結果、欧州サッカー界の市場規模が縮小し、収益が減少していく」という悪い連鎖に陥ることも考えられる。
また、1995年のボスマン判決2以降、サッカー選手の移籍市場が流動化したことから、サッカー選手への給料や移籍金が高騰し3、クラブの財政収支が年々逼迫してきている。クラブは財政状況を少しでも改善したいがために、試合のチケット代を値上げするなど、スタジアムまで通う熱心な一般のファンに金銭的な負担増を強いるようになっており、すでに、選手補強にかかった資金を回収しきれなくなったチームが続々と債務超過に陥っている。2002年にはフィオレンティーナ(イタリア)、2007年にはリーズ・ユナイテッド(イングランド)、2010年にはマジョルカ(スペイン)、2012年にはレンジャーズ(スコットランド)など名門チームが経営破綻を起こした。収入以上の出費をいとわないクラブ運営がまかり通った結果、欧州サッカー界全体で16億ユーロ(約1747億円)と巨額の負債を抱えており、このままでは欧州サッカーのバブル崩壊が起こりかねない。現状を危惧したUEFA(欧州サッカー連盟)はファイナンシャル・フェアプレーという欧州内の各クラブに収支のバランスを取るよう求めたルールを2013年のシーズン終了後に実施するが、どの程度の効果が見込めるかまだ不透明な部分が大きい。
欧州経済が不況に苦しむ中、欧州サッカー界は経済面で多くの成功を収めているようにみえるが、潜在的には課題が山積みになっている。欧州は国家の財政問題のみならず、欧州サッカーバブルの崩壊というリスクも抱えており、問題の大きさ自体は国家の問題と比較すると小さいものの、ヨーロッパ人にとっての日常生活におけるサッカーの存在の重要性を踏まえると、決して欧州サッカーバブルの崩壊リスクを甘く見積もることは出来ないであろう。欧州サッカークラブの財政問題に象徴されるよう、欧州は今後5~10年以内に、国家の財政問題等多くの課題を解決せざるを得ない状況に直面しており、「成長戦略と支出額削減の両立」という難しい舵取りが求められている。
(2013年01月07日「基礎研マンスリー」)
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押久保 直也 (おしくぼ なおや)
研究・専門分野
日本経済、財政
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