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2006年に創設された地域団体商標制度は、「地域ブランド」の構築を目指す地域の事業者への周知が進んでおり、特許庁への商標出願件数も2012年11月末時点で1000件を超えたという1。産品別の出願件数の内訳では、農水産一次産品がおよそ半数を占め、工業製品、加工食品が続いている(図表)。先行事例では、地域団体商標(以下、地域ブランド)を取得することで、知名度の向上や売上げの増加、従来よりも高値での取引が可能になるなどの効果が確認されていることから、近年では特に、類似品との区別がつきにくいコモディティ商品の典型である農水産一次産品において、熾烈な価格競争からの脱却と安定的な利益の確保を狙っての出願が多くなっているものと考えられる。
いくつかの「地域ブランド」では、より安価な外国産品などに対して、品質の高さや安全性を訴求するなどして、一定の価格プレミアムの獲得に成功しているところもある。しかし、地域ブランド化を目指す商品の中には、他の国内の産地との、消費者視点からみた差異が必ずしも明確ではないものも少なくないように思われる。このような玉石混淆の状況を放置したまま、国内産地ごとの「地域ブランド」が乱立すれば、結局のところこれらの商品は同質化し、「地域ブランド市場」ともいうべきサブマーケットの中でコモディティ化が進むだけ、ということになりはしないだろうか。
高価格なプレミアム・ブランドとはならないまでも、ある商品がブランドとして確固たる地位を築くためには、より多くの対価を支払ってでも(類似の商品ではなく)その商品を購入する「意味」を消費者に共有してもらうことが求められる。そのためには、徒に質の向上を目指すのではなく、他のブランドにはない、商品の特性やこだわり、経験といった「独自の意味」を見出し、様々な接点を通じて消費者にとってわかりやすいカタチで伝えていくことが必要ではないだろうか。利用・消費や、生産工程への参加を通じて、消費者が商品そのものへの理解を深めることで、「ブランド」は提供者と消費者の間をつなぐ絆として強く育っていく。
今後、安価な外国産品についても質の向上が進めば、過剰品質に苦しむ家電業界同様、「地域ブランド」の優位性も次第に失われていきかねまい。確かなものとして強い「ブランド」を育てていくための時間的猶予は限られている。
(2012年12月27日「研究員の眼」)
井上 智紀
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