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- 「強風」下の「プレー中断」-今年欧州で起こったふたつの「延期」
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2012年のプロゴルフシーズンも終わった。全英女子オープンゴルフは、例年7月に開催されるのだが、今年は同じ英国でのロンドンオリンピックとの関係もあってか、開催期間をずらして9月に行われた。そういう季節のせいか、大会期間中は例年にない強風が吹き荒れた。大会は4日間の予定で行われたのだが、第2日があまりの強風のため中断となり、残り2日で3日分の競技が行われたのだった。なお、ゴルフが強風により中断などになることはほとんどないそうだ。ましてや英国での試合は強風が一種の名物ですらある。
さて中断となったいきさつについてこんな記事を見つけた。3人一組でプレーする中の、欧州とアメリカの某2選手が「こんな強い風の中でできるわけないじゃない!」と競技委員(他のスポーツでいう審判員)に猛然とクレームをつけ、その組はプレーを進行しなくなり、数十分の抗議の末、結果的に競技委員にも抗議は認められ、そのまま翌日に延期となった、というものである。さてそのとき、3人組の中のもうひとりが、日本人選手であり、またその後ろの組でも別の日本人選手がその様子を見ていた。彼女たちは、競技委員という権威ある存在に対する日本ではあまり見かけない抗議の激しさに驚きながら、「全英オープンゴルフというのはもともと強風の中でやるのがあたりまえではないのか?続行するのが当然。それにしても確かにすごい風だから、中断ならそれでもいい・・・と思っていた。」と後に語ったという。
結局、優勝したのは韓国人選手だった。この選手も風の中で続行することも当然と感じていた一人であるという。このところ特に女子プロゴルフの世界では、韓国、台湾、日本、中国の選手が強く、2013年シーズン終了時の世界ランキングではトップ10の中の8人が入っているような状況にある。従来、米国・欧州の選手がトップクラスの常連だったことを思うと、相当な変化である。この記事では、こうしたアジア出身の選手の共通点として、あるがままの状況を受け入れるという精神的な強さがあって、自己主張の強さを前面に出す欧米選手とは少し違う。スポーツの中では精神的な部分の占める比重の比較的大きいゴルフという分野では、このことが世界のトップクラスで戦うための大きな力となっているのではないかと分析し、さらに今後の活躍を期待している。
さて、話はうって変わって、保険業界のほうの話である。現在、欧州ではソルベンシーIIをはじめとして、経済価値ベースの会計や自己資本規制のルール作りが進んでいる・・・はずだが、ここのところ、スケジュールは遅延している。思うに、低金利という「強風」が吹き荒れているなど経済状況が芳しくないために、このまま検討を進めていいものかという「プレー中断」の状態と見受けられる。
翻ってわが国においてはそんな強風はもう何年も前から吹き荒れていて、もはやあたりまえとも言える状況である。そうした中でも、保険会社は商品設計や資産運用面で工夫して、どうにか乗り切ってきているという状況であろう。これまで欧州・米国での「好天」の中で考えられたルールなども理論的に正しいと思えば、(やむなくという面も含めて)足並みを揃え導入する方向で議論は進められてきたはずだ。それこそ自分たちも苦しいし「どっちでもいい」のだが。欧州では今になって「強風」が吹き始めたので、だれかが「プレー中断」を主張しているのかもしれない。
これまでもわが国は、さまざまな経済的な悪条件に直面し、そのたびに技術革新や国民全体の節約といったような工夫により、乗り越えてきたのではなかったか。自分の立場・主張を堂々と述べるのは重要なことで、むしろ日本人には欠けているものかもしれないが、あるがままの環境を受け入れて、その対応策を編み出し、さらに実力をつけていけるのもすばらしい能力だと思う。
もちろん、ゴルフ界と保険業界を完全に同型対応で考えられるほど、諸条件、結果の評価は同じではないが、何からでも前向きな教訓を感じとるのは自由であろう。日本の保険業界の片隅に身を置く者として、微力ながら「強風」下の中でのさまざまな工夫の部分の発展に貢献していきたい。もちろん、それ以上にゴルフについても、日本人ゴルファーの今後の活躍に期待する。
(2012年12月21日「研究員の眼」)
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- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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