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賃貸住宅市場に与える消費増税の影響~ 貸家建設に対する影響緩和措置の必要性 ~

社会研究部 土地・住宅政策室長 篠原 二三夫
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2012年8月22日に公布された「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」では、「住宅の取得については、取引価額が高額であること等から、消費税率の引上げの前後における駆け込み需要及びその反動等による影響が大きいことを踏まえ、一時の税負担の増加による影響を平準化し、及び緩和する観点から、住宅の取得に係る必要な措置について財源も含め総合的に検討する」とある。
住宅業界は、消費者の負担を増やさぬように、カナダで行われている新築住宅還付制度に習い、現行の税率5%を超える増税分については還付するように要望しているが、政府税調や財務省は、これに対し、ローン減税の拡充によって増税分の負担を軽減する措置を講じようとしている。しかし、ローン減税という話しが出てきたように、現在の議論は持家の取得に限られている。
賃貸住宅建設や供給に対する増税分の取扱いは、業界でもあまり議論されておらず、今の所、政策的な対応についても議論がないまま増税を迎えようとしている。平成23年度税制改正大綱から未だに実現していない相続税の増税がほぼ同時期に行われるという見通しもあり、賃貸住宅市場では消費税増税とともに駆け込みを促す圧力が高まっている。
2012年10月の季節調整済み賃家着工戸数(年換算値)は38.4万戸となり、その伸び率は昨年同月比で48.3%増(持家12.6%、分譲13.9%、平均25.2%増)と、持家や分譲を大きく上回っている。しかし、平成20年の住宅・土地統計調査では、全国の空家は757万戸(空家率13.1%)あり、そのうち賃貸用は413万戸である。平成22年3月に公表された空家実態調査報告書では東京都と東京圏のうち東京40km以遠、大阪府における空家の83.7%は賃貸住宅が占める。経済や空家の状況からすると、賃貸住宅着工が伸びている状況は説明しにくい。
このままでは賃貸住宅市場の需給に歪みが生じ、さらに空家が増え、不適切な土地利用による社会・経済損失が生じたり、年金の補完的機能を果たしている貸家経営にも影響がでたりすることが懸念される。日本を除くG7各国では、住宅市場に歪みが出ないように、賃貸住宅にも持家と同等に、消費税の軽減措置が講じられている。新政権には、賃貸住宅に対する消費増税についても、迅速かつ的確な議論に基づく、適切な緩和措置の策定を期待したい。
(2012年12月18日「研究員の眼」)

03-3512-1791
- 【職歴】
1975年 丸紅(株)入社
1990年 (株)ニッセイ基礎研究所入社 都市開発部(99年より社会研究部門)
2001年より現職
【加入団体等】
・日本都市計画学会(1991年‐) ・武蔵野NPOネットワーク役員
・日本不動産学会(1996年‐) ・首都圏定期借地借家件推進機構会員
・日本テレワーク学会 顧問(2001年‐)
・市民まちづくり会議・むさしの 理事長(2005年4月‐)
・日米Urban Land Institute 国際会員(1999年‐)
・米国American Real Estate Finance and Economics Association国際会員(2000年‐)
・米国National Association of Real Estate Investment Trust国際会員(1999年‐)
・英国Association of Mortgage Intermediaries準国際会員待遇(2004年‐)
・米国American Planning Association国際会員(2004年‐)
・米国Pension Real Estate Association正会員(2005年‐)
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