- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経営・ビジネス >
- 企業経営・産業政策 >
- 悲観論者は楽観的 - リーダーに求められる資質
1.想定外の事態
2005年の新語・流行語大賞の年間大賞には、「想定内(外)」という言葉が選ばれている。堀江貴文ライブドア社長(当時)が、企業買収交渉の状況急変に対して、マスコミから発せられる矢継ぎ早の質問に「こんなことが起こるかも知れないということは、はじめから分かっていましたよ!」とばかりに、連発したセリフが流行の発端だった。
さて、年末年始には新年の経済見通しを尋ねられる機会が増える。とりわけ新年会などの場で経済について厳しいお話をすると、後から話が悲観的過ぎるというお叱りを受けることも少なくない。エコノミストが暗い話ばかりするから、皆が悲観的になってしまい、実際の景気が悪くなるのだとか、もっと明るい予測を発表すれば、世の中が明るくなって、実際に景気も良くなるはずだという指摘を受けるは度々である。
そうした批判は「想定内」の話であり、これから最も起こりそうな経済状況を予想するのが、エコノミストの仕事だと思っている。
2.悲観と楽観
当研究所の経済予測はマクロ計量モデルで作成しているが、実績数値をコンピュータに入れれば自動的に答えが出てくるというようなものではない。
モデルを使った予測では「犬が西を向き尾も西を向く」というような矛盾した予測は作ろうとしてもできない。しかし、どんな予測でも作れるわけではないというだけで、将来の前提条件の置き方で出てくる答えは大きく変化する。極論すれば、非常に楽観的な前提条件を置けば出てくる結果は明るいものになり、悲観的な条件を仮定すれば暗い結果が出てくるわけで、結論を変えたければ前提とする条件を変えれば良いということだ。
そこで、明るい話をするために楽観的な前提だけを考えたがるようになる。「こういうことが起こったらどうするのか」、と質問すると、「そのようなことにならないように努力する」という判じ物のような答えがかえってきたりもする。自分が考えたくない結論が出てこないように、予測で想定する前提条件の方を捻じ曲げて操作したくなるのだ。
3.リーダーに求められる資質
長年経済予測の作業に携わって分かったのは、将来について楽観的な予想をする人ほど実は悲観的なのだということだ。こういうことが起こったらどうするのかと尋ねると、得てして楽観論を唱えていた人ほど、そんなことになったらもうおしまいだという反応をする。逆に悲観的な想定を考える人ほど、どんなことがあっても大変ではあるが何とかなると考えているようだ。だから、こんなことが起こったらどうしようかという思案をあれこれするのだ。
リーダーは、どんな危機に直面しても人々を鼓舞し、難局を乗り切ろうとすることが求められる。どんな局面でも、必ずなんとかなると考える楽観論者であることが必要だ。しかし、その一方で想定される困難な状況に対して予めどう対処するかを冷静に考えておくことも同じくらい重要で、考えたくなくなるような厳しい状況をも想像できる悲観論者であることも大切なリーダーの資質だろう。
(2012年11月28日「エコノミストの眼」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
研究・専門分野
櫨(はじ) 浩一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2020/03/06 | 不安の時代ー過剰な貯蓄を回避する保険の意義 | 櫨(はじ) 浩一 | 基礎研マンスリー |
2020/02/27 | MMTを考える | 櫨(はじ) 浩一 | 基礎研レポート |
2020/02/07 | 令和の日本経済はどうなるか-経済予測の限界と意義 | 櫨(はじ) 浩一 | 基礎研マンスリー |
2020/01/31 | 不安の時代~過剰な貯蓄を回避する保険の意義~ | 櫨(はじ) 浩一 | エコノミストの眼 |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年12月13日
ECB政策理事会-3会合連続となる利下げを決定 -
2024年12月13日
インド消費者物価(24年11月)~11月のCPI上昇率は4カ月ぶりに低下、食品価格の高騰がやや緩和 -
2024年12月13日
海底資源探査がもたらす未来-メタンハイドレートと海底金属 -
2024年12月13日
日銀短観(12月調査)~景況感はほぼ横ばい、総じて「オントラック」を裏付け、日銀の利上げを後押しする内容 -
2024年12月13日
グローバル株式市場動向(2024年11月)-トランプ氏の影響で米国は上昇するが新興国は下落
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【悲観論者は楽観的 - リーダーに求められる資質】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
悲観論者は楽観的 - リーダーに求められる資質のレポート Topへ