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- 金利低下によるJ-REITの収益改善効果を考える~今後5年間でプラス10%の増益要因~
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■見出し
1――日本銀行による金融緩和政策の効果
2――不動産向け融資環境は2009年3月をボトムに回復するも貸出し額は伸びず
3――金利低下によるJ-REITの収益改善効果を考察する
4――おわりに
■introduction
2012年に入り、J-REIT(不動産投資信託)市場が堅調に推移している。昨年来、東証REIT指数とTOPIX(東証株価指数)のパフォーマンスはほぼ連動してきたが、国内株式が今年3月をピークに世界的な景気減速懸念などにより下落に転じ、その後も底値圏で低迷する一方、東証REIT指数(配当込)の年初から9月末までの上昇率は28%に達する(図表―1)。
このような上昇の理由として、J-REIT市場の5%を超える安定した分配金利回りやオフィス市況の回復期待、4年半ぶりにJ-REIT2社が新規上場し市場拡大の期待が高まったこと、来年に予定される自己投資口買いの解禁などJ-REIT制度改革に対する評価に加えて、日本銀行による「包括的な金融緩和政策」の効果を指摘することができる。
日本銀行の「包括的な金融緩和政策」は、(1)無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標水準を0~0.1%程度とする実質的なゼロ金利政策の実施、(2)「資産買入等の基金」を通じた金融資産の買入れ、(3)当面、消費者物価の前年比上昇率1%を目指して強力な金融緩和を推進していく時間軸の明確化、の3項目からなる。
まず、金融緩和政策の1つ目の効果は、「資産買入等の基金」によるJ-REIT購入である。基金は多様な金融資産の買入れを通じて、長めの市場金利の低下と各種リスク・プレミアムの縮小を促進することを目的に創設され、規模は追加の緩和措置により80兆円に増額されている。このうち、J-REITの購入枠は市場時価総額の約3.5%に相当する1,200億円で、9月末時点の買入れ額は971億円(遂行率81%)、年内に残り229億円を購入する予定である。
J-REIT市場のリスク・プレミアム(分配金利回りと10年国債利回りのスプレッド)の推移を確認すると、2010年10月の政策発表直後にアナウンスメント効果が働いて、リスク・プレミアムは4.5%から3.3%へと大幅に縮小した(図表―2)。2010年12月に始まった買入れ実施後は、震災や欧州債務危機の深刻化といった外的ショックの影響が大きく一時5.2%に拡大したが、現在は買入れ効果の浸透も手伝い4.4%に低下している。このように基金による買入れは、J-REIT市場に対する投資家の信認向上や市場混乱時の下落を下支えする役割を果たす一方、リスク・プレミアムは市場の過去平均値(3.4%)や政策実施後の最低値(3.3%)と比べてなお高く、これまでのところ、リスク・プレミアムの縮小を促すという政策効果は道半ばだと言える。
次に、金融緩和政策の2つ目の効果として、金利低下による収益改善期待が挙げられる。日本経済のデフレ傾向が継続し金融緩和の長期化が予想されるなか、10年国債利回りは1%を下回り、主要な貸出基準金利(TIBOR3ケ月金利、SWAP5年金利)も低下傾向にある(図表―3)。J-REIT各社は、2008年のリーマン・ショック前後にわたる金利上昇期や信用収縮期において、比較的高い金利での資金調達を余儀なくされたが、これらの借入金が返済期日を迎えて順次低い金利でリファイナンス(借換)していくことで、「借入金利の低下→支払利息の減少→収益改善(分配金へのプラス寄与)」の好循環が見込まれている。
以下では、最初に、これまでの不動産業向け融資環境を振り返る。次に、J-REITの財務内容を確認したのち、今後5年間の金利シナリオを設定し、借入金利が低下し支払利息が減少することによる収益改善効果を考察したい。
(2012年10月30日「基礎研レポート」)
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03-3512-1858
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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