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- 虎舞、鹿踊りに託された復興への思い-岩手県大槌町「小鎚神社例大祭」
岩手県大槌町、東日本大震災の津波と火災で甚大な被害を受けた町のひとつである。民宿の屋根に取り残された双胴型の観光船「はまゆり」の写真を記憶の方も多いだろう。
その大槌町の小鎚神社で、9月22、23日の二日間にわたって「小鎚神社例大祭」が開かれた。同町には虎舞、鹿踊り、神楽など22の伝統芸能が現存するが、獅子頭や装束、太鼓などが流されるなど、その多くが震災で大きな被害を受けた。昨年は例大祭の開催が危ぶまれる中、何とか有志で実施。今年は、22団体中17団体が参加して開催の運びとなった。
企業メセナ協議会の東日本大震災芸術・文化による復興支援ファンド(GBFund)は、設立当初から被災地の祭りや郷土芸能を積極的に支援し、今年3月には「百祭復興プロジェクト」を立ち上げた。同協議会が主催した現地視察に参加し、郷土芸能が被災地の誇りやコミュニティの維持にいかに重要な役割を果たしているか、改めて実感した。
22日の日中には、地元のNPOつどいの元持幸子さんが現地を案内してくださった。津波で壊滅的な被害を受けた赤浜地区では、がれきが撤去された後、地面に張り付くように残された住宅の基礎や床タイルがかつての町並みと津波被害の甚大さを今も連想させる。沿岸部にはうずたかく積み上げられたままのがれきの山。その一部は緑に覆われ、大震災から1年半という時間の経過を物語っている。
震災前の大槌町の人口は約1万6,000人。大震災で約1,300人の方々が亡くなられたり行方不明となり、人口は大幅に減少した。被災者を含め町外で暮らす方々も多く、実際に大槌町内に暮らす町民の数は1万人ぐらいではないかという。しかし小鎚神社例大祭に向け、そうした方々の多くが大槌町に戻ってきたそうだ。
実際、宵宮祭は、虎舞や鹿踊りの皆さんに加え、多くの見学者の熱気で包まれていた。獅子頭や装束、そして舞いや踊りは団体ごとに異なるが、復興への思いが込められているのはどこも同じだ。震災後は、郷土芸能に参加する若者が増えたとも聞く。子どもたちも小さな獅子頭や装束を身につけて参加している。
翌日には小鎚神社の御輿への魂入れと奉納舞などの神事の後、町内の練り歩きが行われた。昨年は震災の影響で見送られたが、今年は町のここかしこで虎舞も披露された。今後、復興に向けて区画整理と土盛りが行われるため、震災前の町並みで練り歩きが行われるのは今年が最後だという。
「お祭りは皆さんのご支援で徐々に復興してきましたが、水産業の再開にはまだまだ時間もお金もかかります」という元持さんの言葉が耳に残っている。それでも、宵宮祭に集った虎舞や鹿踊りの勇壮な姿を見ていると、郷土芸能が地域の誇りや復興への思いを紡いでいくかけがえのない存在であることがひしひしと伝わってくる。被災地の「文化からの復興」、引き続き支援したいものである。
(2012年10月30日「研究員の眼」)
吉本 光宏 (よしもと みつひろ)
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