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- 認知症高齢者数の将来推計-早期対応に本気で取り組むとしたら・・・
8月24日、厚生労働省老健局は「「認知症高齢者の日常生活自立度」II以上の高齢者数について」を公表した。これによると、当該高齢者数は3年後の2015年には345万人、8年後の2020年には410万人になるとしている。実に、65歳以上高齢者の10人に1人が認知症との推計結果である(ただし、推計には要介護認定申請を行っていない認知症の人は含まれていないので、実際にはさらに多くなると考えられている)。もはや認知症は特別の病気でもなんでもなく、全ての人が自分のこととして考えなければいけない将来の自分の姿として捉えるべきであろう。
増え続ける認知症高齢者数を背景に、今年6月、厚労省の認知症施策検討プロジェクトチームが公表した報告書「今後の認知症施策の方向性について」の中では、認知症施策の具体的な方針が打ち出された。また、その施策を進めていく上での達成目標や平成25年度から29年度までの取り組みを示した「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」も示されたところである。この十年、地域ごとに試行錯誤で取り組んできた認知症施策は、今後、全国規模のダイナミックな流れの中で、急加速した取り組みが求められていくと思われる。まさに、第6期介護保険事業計画を策定するまでのこの数年が、各地域における認知症支援体制構築の“正念場”と考えるべきだろう。
ところで、今回の推計結果に対する自治体関係者の反応はというと・・。
いくつかの自治体関係者の話を聞く限り、推計値が示す認知症高齢者の多さにあわてふためく様子は感じられない。むしろ、長い間使われてきた2003年時点の推計値が少なすぎるという認識のもと、「やっと実態に近づいてきた」という反応の方が多いようだ。確かに、各自治体は3年ごとの介護保険事業計画策定にあたって独自の情報収集・調査を行い、認知症高齢者の実態や状況把握に努めてきている。今回のように全国推計値がどれだけ増えようとも、地域の実情に応じた支援策を引き続き着実に遂行していくことが最も重要であると考えているのだろう。
そこで着目したいのは、今回の推計には示されていない認知症高齢者の日常生活自立度「ランクI」に該当する人の数である。以前から認知症ケアにおける早期診断・早期対応の重要性は様々に言われてきた。また、前述のプロジェクトチーム報告書の中でも初期支援の重要性は強調されている部分だが、前回の推計(2003年)と同様、今回も、「ランクI」の該当者数についての情報は示されていない。
「ランクI」とは、「何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している」人たちであり、現時点での生活支援ニーズに緊迫感がある状況とは言えないだろう。しかし、その後、認知機能等の衰えにより、日常生活に不都合が生じてきたり、環境や関わり方への配慮が不足していたりする場合には、急激な状態変化が生じてくる可能性が高い人たちでもある。認知症の中核症状が進んでしまう前に、生活上のストレスを軽減し、不安や混乱を予防したりQOLの維持・向上を図っていくことは、認知症の重度化を予防していく上でも重要な取り組みとなる。認知症という診断結果を突きつけられたまま将来の不安を抱えて過ごしている「ランクI」の人たちに、この時期にこそやらなければならない支援が必ずあるはずだ。
認知症の人の多さや支援不足に気づきながら具体的な支援策につなげられない自治体の行き詰まり感がある中、『第5期市町村介護保険事業計画の策定過程に、地域診断の結果を反映できている地域は全体の2割』1との調査結果も公表されている。地域で把握した情報をいかに支援策に結び付けていくか、その施策を機能させるためにどのような仕掛けを講じていくのか、それが第六期介護保険事業のキモになるように思うが、もしかしたら「ランクI」の認知症の人を施策の対象に含めていくことが、認知症の困難なケースを減らしていく“近道”になるのかもしれない。
(2012年09月11日「研究員の眼」)
山梨 恵子
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