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- 「分かち合う」幸齢社会-“おひとりさま”時代の「老い支度」
今年6月、岩波ホールで「キリマンジャロの雪」というフランス映画を観た。港町マルセイユを舞台にした熟年夫婦の物語だ。夫は労働組合の委員長だが、会社のリストラにより多くの同僚とともに解雇されてしまう。その時、子どもたちが夫婦の結婚30周年記念にアフリカ・キリマンジャロへの旅行券をプレゼントしてくれる。しかし、ある日強盗に押し入られ、預金とともに旅行券も奪われてしまうのだ。
やがて犯人は夫と一緒に解雇された元同僚で、幼い二人の弟を養っている青年だったことがわかる。その事実を知った夫は、怒り、戸惑い、苦しむ。しかし、犯人の身寄りのなくなった幼い弟たちに手を差し伸べずにはいられない夫婦は、この二人を育てることを決断する。そして手元に戻ったキリマンジャロへの旅行券も換金してしまう。それでも、夫婦は幸せに満ちているのである。
この映画を観て、人はどこまで優しくなれるのだろうと思った。貧しくてもお金を自分たちだけのために使うのではなく、困っている人がいれば分かち合う、そんな人と人とのつながりが幸せをもたらすのだろうか。自分だけの幸せを求めても、決して本当の幸せは訪れないような気がする。世の中には自分ひとりだけの幸せはないのかもしれない。先日、テレビで「東京ごはん映画祭」の“INTO THE WILD”という映画を見ていると、『幸福が現実となるのは、それを誰かと分かち合ったときだ』という字幕を偶然見つけたことを思い出す。
現代社会は「競い合うこと」に目を奪われ、「分かち合うこと」を置き去りにしていないだろうか。これから本格的に訪れる“おひとりさま”時代は孤独だ。しかし、今年101歳になる聖路加病院理事長の日野原重明さんは、『自分のためにではなく、人のために生きようとするとき、その人は、もはや孤独ではない』と言われている。幸せに年を重ねる「幸齢社会」を迎えるための本質を突いた言葉であるように思う。映画「キリマンジャロの雪」を観て、改めて“幸せ”は「分かち合う」ものだと思った。そこに“おひとりさま”時代の「老い支度」を考えるヒントがあるのではないだろうか。
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土堤内 昭雄
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(2012年08月20日「研究員の眼」)
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