- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 暮らし >
- ライフデザイン >
- 「辞書」で読み解く現代社会-2012年 本屋大賞「舟を編む」から
今年4月10日、「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本 2012年本屋大賞」が発表された。大賞には国語辞典を編纂する話を描いた三浦しをん著『舟を編む』が選ばれた。「国語辞典をつくるのは言葉の海を航海するための舟をつくることのようだ」という思いからこのタイトルになったのだろう。ここからは辞典づくりの苦労と面白さがよく伝わってくる。
これまで国語辞典は分からない言葉があると、その意味を調べるために使う道具だとばかり思っていた。しかし、国語辞典を普通の本のように読むと、そこから編纂者の眼を通した時代の諸相がうかがえる。辞書は5年から10年ごとに改訂されるが、それは時代状況が変化したために語釈の変更が必要になったり、時代が要請する掲載語を取捨選択したりするためだ。近年では多用される外国語への対応も欠かせない。
辞書を読んでみて自らが編者になったとしたらどのような語釈をつけるだろうと考えてみることも楽しい。ありきたりの言葉をいざ簡潔に説明しようとすると、これが案外難しい。例えば「左」をどのように説明するか。広辞苑(第6版)によると「南を向いた時、東にあたる方」とさりげなく書いてあるが、一方、とても個性的な説明の仕方もある。ユニークな語釈で知られる三省堂・新明解国語辞典(第7版)には次のように記述されている。
「左」は「アナログ時計の文字盤に向かった時に、7時から11時までの表示のある側」、「『明』という漢字の『日』が書かれている側」、「人の背骨の中心線と鼻の先端とを含む平面で空間を2つの部分に分けた時に、大部分の人の場合、心臓の拍動を感じる場所がある方」とある。実にユニークな語釈だと感心する。このように辞書の語釈には豊かな想像力と創造力が求められるのだ。
かつて家庭のインテリアの一部でもあった百科事典の多くはすでに電子化され、分厚い国語辞典も電子版が主流になりつつある。『舟を編む』の中には辞書の紙をつくる製紙会社の話が出てくる。辞書はページ数が多いため、紙はいかに薄く、軽く、インクの乗りがよく、裏写りしないかがポイントだという。そしてさらに指に吸い付くようにページがめくれる「ヌメリ」という感触が重要なのだと。
今年の本屋大賞『舟を編む』は、国語辞典を読みながら編纂者の眼を通して現代社会を読み解く楽しみを教えてくれたが、それは独特の紙の感触も含めた、書物の持つ正統なアナログ文化を次世代に伝える国語辞典への賛歌のように思える。
土堤内 昭雄
研究・専門分野
ソーシャルメディア
新着記事
-
2021年01月15日
EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(6)-EIOPAの2020年報告書の概要報告- -
2021年01月15日
新型コロナによる都道府県別の個人消費減少額を試算-緊急事態宣言の再発令でさらなる落ち込みは不可避 -
2021年01月14日
さくらレポート(2021年1月)~景気は持ち直しているが、先行きに慎重 -
2021年01月14日
企業物価指数(2020年12月)―前年比でマイナス幅は徐々に縮小へ -
2021年01月13日
ポストコロナの韓国版ニューディールは成功するか?
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2020年10月15日
News Release
-
2020年07月09日
News Release
-
2020年06月25日
News Release
【「辞書」で読み解く現代社会-2012年 本屋大賞「舟を編む」から】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「辞書」で読み解く現代社会-2012年 本屋大賞「舟を編む」からのレポート Topへ