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運用の委託先を見る眼が必要である
金融研究部 取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長 德島 勝幸
一部の年金基金では自家運用を行っているものの、多くの企業年金や公的年金は運用を外部委託している。プロに運用を任せる外部委託とするか自家運用とするかは、運用資産の規模と運用に要するコスト次第であるが、高い利回りを求めた高度な運用手法は、必然的に外部委託せざるを得ない。
AIJ投資顧問の運用資産は約2,000億円とされており、投資手法としてはオルタナティブ投資と分類されるヘッジファンド運用を採用していたとされる。デリバティブやヘッジファンドといったカタカナ運用すべてが危険なものではないし、それだけで忌避すべきものではない。しかし、近年のAIJ投資顧問の契約資産残高及び契約件数の増加ペースは異常である。リーマンショック後においても運用成果が良好であることが知られており、年金運用の世界においては、有力な運用者の一つとして一世を風靡していたのである。ライバルの運用会社の営業部門泣かせの存在であった。
株価の低迷や円高によって高リスク資産での運用が芳しくなく、国内低金利の継続にあえぐ企業年金にとっては、ヘッジファンド等のオルタナティブ投資は重要な利回り獲得手段の一つである。特に、総合型と呼ばれる厚生年金基金の場合には、制度利率の引下げが容易でないために、少しでも高い利回りの獲得を目指して高いリスク運用に傾斜しがちである。公表されている高い運用実績を元に、AIJ投資顧問は多くの年金資金を受託し、急速に受託資産残高を伸ばしていたのである。業界全般が低迷している局面で、一部の会社のみが好成績を挙げる場合には、卓越した運用能力を有するか、虚偽の情報を開示していたかのどちらかであり、本事案(及び従来の多くについても)は後者に該当するようだ。
ヘッジファンド等オルタナティブ投資の多くは、国内にある投資顧問会社が受託の窓口となっているものの、その先の実際の資産運用は、海外の運用会社に再委託されていることが多い。そのため、運用の委託者である年金基金が運用者を調査しようとしても、必ずとも十分な実態調査ができるものではない。特に、タックスヘブンと呼ばれるオフショア勘定にファンドを設定して、運用を指図する会社は、また、別の国に存在する場合等、個別の年金基金が十分なデューデリジェンスを行うのは難しい。
外部へ運用の委託を行う際には、可能な範囲で十分な事前調査が必要である。過去のパフォーマンスや運用を受託している資産規模等のみを見るのではなく、運用会社の実態を極力詳細に見るべきであり、特に、海外に運用を再委託している場合は、石橋を叩いて渡るくらい慎重に評価を行ってから投資を行うべきである。運用に携わる人数や資産残高、過去の運用成果といった定量的な指標を見るだけでなく、外国籍ファンドの設定場所や運用に従事するマネージャーの経験・経歴等定性的な要素も確認することが必要である。
何しろ大切な年金資産の運用を委託するのである。受託者責任を第一に負う年金基金は、十分な委託者の調査分析が不可欠であり、それに必要な「眼」を養うべきである。基金そのものが困難な場合には、その「眼」を信頼できる第三者に委託することを考えても良いだろう。
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