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コラム
2012年02月10日
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1月末に公表された国立社会保障・人口問題研究所の新たな日本の将来推計人口をみると、2060(平成72)年にはわが国の総人口は約3割減り、子どもと現役世代が半減し、社会全体の4割が高齢者になるという「人口減少社会・日本」の姿が浮かび上がる。このような人口減少時代を迎えるわが国が、どうすれば国力を維持し、活力ある社会を築くことができるのだろうか。
一つの方策はできる限り急速な人口減少を食い止めることであり、もう一つは国民一人ひとりの能力を高め、その能力を活用できる社会をつくることだ。現在、政府は社会保障と税の一体改革のなかで、「幼保一体化」という幼稚園と保育所を統合し、質の高い幼児教育と保育を一体的に提供する施設「総合子ども園」を構想している。これにより待機児童を解消し、子育て期の女性就業率の向上と出生数の増加を図り、将来にわたる労働力人口を確保するのである。
一方、国民の潜在的な能力開発のためには教育の充実が必要である。イギリスの元首相トニー・ブレアは1997年の就任時に、優先すべき政策は『一に教育、二に教育、三に教育』と語ったが、人口減少時代に向う日本にとっても同様であり、とりわけ幼児教育が重要だ。シカゴ大学の労働経済学者であるヘックマンは就学前教育への投資効果が高いことを明らかにしており、幼児教育の充実を図るための公共政策が国民の生産性向上につながることが期待される。
今回の「幼保一体化」は福祉施設の保育所と教育施設の幼稚園を一体化し、厚生労働省と文部科学省による二重行政を解消するはずだが、実際には幼稚園が存続し、私学助成金も交付されるという。それは縦割り行政の弊害とも言えるが、これまでの幼稚園教育の役割も忘れてはならない。
近年では幼稚園は少子化の影響から定員割れとなる場合もあり、その対応策として早期受験に向けた幼児エリート教育に特化してブランド化する施設もあり、それが幼稚園児の登園拒否などの新たな問題となっているとの指摘もある。今回の「幼保一体化」の議論には、真に子どもの能力を高める幼児教育のあり方や保育一体となった「質の高い幼児教育」を提供するという教育政策としての視点が欠落しているように思われてならない。
では、日本の幼児教育にとって何が重要であろうか。それはふたつの「ソウゾウリョク」を育むことではないだろうか。ひとつは問題解決能力としての「創造力」であり、もうひとつは問題発見能力としての「想像力」である。最近では「ユニクロ」のような新卒一括採用から学歴や国籍を問わない通年採用する企業が出現している。これは企業が抱える複雑な問題を解決するために「創造力」を生み出す人材の多様性(ダイバーシティ)が求められているからである。
また、社会の問題を発見するためには、他の人々の状況を慮る「想像力」、すなわち「人を想う力」が必要なのだ。豊かな「想像力」は様々な社会の問題を発見し、その解決に向けて人と人とのつながりや信頼性、規範というソーシャルキャピタル(人間関係資本)を醸成するだろう。
今、日本に求められているのはこのような多様性が育む「創造力」とソーシャルキャピタルを醸成する「想像力」を有する人材である。北欧諸国やドイツでは“森の幼稚園”と呼ばれる自然のなかで子どもの主体性や判断力、責任感を育む幼児教育が実践されている。森の中の幼児教育は単に知識を詰め込んだり点数で子どもを評価するのではなく、一人ひとり子どもの意思を尊重し、子どもの選択機会を保障する。豊かな「創造力」と「想像力」を備えた人材を育成し、その人財を活用できる社会を目指す教育立国こそが、これからの「人口減少社会・日本」の針路ではないだろうか。
一つの方策はできる限り急速な人口減少を食い止めることであり、もう一つは国民一人ひとりの能力を高め、その能力を活用できる社会をつくることだ。現在、政府は社会保障と税の一体改革のなかで、「幼保一体化」という幼稚園と保育所を統合し、質の高い幼児教育と保育を一体的に提供する施設「総合子ども園」を構想している。これにより待機児童を解消し、子育て期の女性就業率の向上と出生数の増加を図り、将来にわたる労働力人口を確保するのである。
一方、国民の潜在的な能力開発のためには教育の充実が必要である。イギリスの元首相トニー・ブレアは1997年の就任時に、優先すべき政策は『一に教育、二に教育、三に教育』と語ったが、人口減少時代に向う日本にとっても同様であり、とりわけ幼児教育が重要だ。シカゴ大学の労働経済学者であるヘックマンは就学前教育への投資効果が高いことを明らかにしており、幼児教育の充実を図るための公共政策が国民の生産性向上につながることが期待される。
今回の「幼保一体化」は福祉施設の保育所と教育施設の幼稚園を一体化し、厚生労働省と文部科学省による二重行政を解消するはずだが、実際には幼稚園が存続し、私学助成金も交付されるという。それは縦割り行政の弊害とも言えるが、これまでの幼稚園教育の役割も忘れてはならない。
近年では幼稚園は少子化の影響から定員割れとなる場合もあり、その対応策として早期受験に向けた幼児エリート教育に特化してブランド化する施設もあり、それが幼稚園児の登園拒否などの新たな問題となっているとの指摘もある。今回の「幼保一体化」の議論には、真に子どもの能力を高める幼児教育のあり方や保育一体となった「質の高い幼児教育」を提供するという教育政策としての視点が欠落しているように思われてならない。
では、日本の幼児教育にとって何が重要であろうか。それはふたつの「ソウゾウリョク」を育むことではないだろうか。ひとつは問題解決能力としての「創造力」であり、もうひとつは問題発見能力としての「想像力」である。最近では「ユニクロ」のような新卒一括採用から学歴や国籍を問わない通年採用する企業が出現している。これは企業が抱える複雑な問題を解決するために「創造力」を生み出す人材の多様性(ダイバーシティ)が求められているからである。
また、社会の問題を発見するためには、他の人々の状況を慮る「想像力」、すなわち「人を想う力」が必要なのだ。豊かな「想像力」は様々な社会の問題を発見し、その解決に向けて人と人とのつながりや信頼性、規範というソーシャルキャピタル(人間関係資本)を醸成するだろう。
今、日本に求められているのはこのような多様性が育む「創造力」とソーシャルキャピタルを醸成する「想像力」を有する人材である。北欧諸国やドイツでは“森の幼稚園”と呼ばれる自然のなかで子どもの主体性や判断力、責任感を育む幼児教育が実践されている。森の中の幼児教育は単に知識を詰め込んだり点数で子どもを評価するのではなく、一人ひとり子どもの意思を尊重し、子どもの選択機会を保障する。豊かな「創造力」と「想像力」を備えた人材を育成し、その人財を活用できる社会を目指す教育立国こそが、これからの「人口減少社会・日本」の針路ではないだろうか。
(2012年02月10日「研究員の眼」)
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