コラム
2012年01月20日

プラス改定の意味

阿部 崇

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昨年12月21日、診療報酬・介護報酬の改定率※1が公表された。診療報酬は“+0.004%”、介護報酬は“+1.2%”という改定率については、関係者がそれぞれの立場から一様に肯定的な評価をしている点が印象的といえる。

確かに、放っておけば診療報酬・介護報酬ともにマイナス改定が必至の状況であったのだから、先の改定率による決着に、財務当局以外が肯定的な評価をすることもうなずける。しかし、診療報酬は実質±0改定であり(少数以下3桁までいってやっとプラス)、また、介護報酬は、介護職の処遇改善のための財源(介護報酬の2.0%相当)が交付金※2形式から介護報酬による評価に変更されるが、改定率はその規模を下回っており、実質マイナス改定である。

その中で、公表直後からプラス改定をことさら強調するような「主務官庁としての医療・介護に対する思いを示せた」や「劣勢を跳ね返し、医療・介護の現場を守った」などとする関係者のコメントには大きな違和感をおぼえる。

さて、前置きが長くなってしまったが、今回は、改定率の「形式」と「実質」について着目したい。ここでいう「形式」とは、医師の技術料を中心とする「診療報酬本体」や薬剤価格等の「薬価・材料」といった診療報酬のテクニカルな構造面を指すのではなく、改定率が“どのように公表されたか”、“どう伝わるのか”という意味での「形式」である。

1ヵ月前の改定率公表後には、“診療報酬・介護報酬ともプラス改定に”との報道と、上記のような関係者の肯定的なコメントが続いた。しかし、これでは、医療と介護の現場が直面するであろう「実質」とは正反対のイメージを世の中に発信した虞がある。

もちろん、改定率の数値は“+0.004%”であり、“+1.2%”であることは「形式」としては正しい。しかし、限りなく0に近い“+0.004%”、また、比較対象として含めるべきもの(交付金)を含めれば0.8%のマイナスになる“+1.2%”について、「実質」はマイナス改定であるということこそ、関係者が世間一般、そして医療・介護の現場に伝えるべきメッセージではなかっただろうか。具体的には、改定率の公表において「実質」をきちんと「形式」(数字)として表現させることが必要であっただろう。つまり、診療報酬は“±0改定”、介護報酬は“マイナス0.8%改定”であること、をあえて「形式」として受け入れるべきではなかったか。それは、医療・介護の現場の状況の共通理解にもつながる。

最後にもう一つ。改定率が次の報酬改定の材料になることについて触れたい。たとえ「実質」がマイナス改定でも、“+0.004%”、“+1.2%”という「形式」が残れば、2年後(診療報酬)、3年後(介護報酬)には、「前回はプラス改定だったのだから・・・(今回は諦めて)」、「2回連続のプラス改定は国民的理解が・・・(到底得られない)」と使われることもある。ここにも「実質」を数字に残す意味があるのである。
 
※1 改定率とは、これから決まる新しいサービス単価(点数・単位数)で算定されたときに、それぞれの保険給付費の総額が現行の給付総額に対してどのくらい上下する結果となるのか、という予測値をいう
※2 交付金とは、介護保険制度において、介護職員等の処遇改善・人材確保に着目して、一定の要件のもとで介護サービス事業者・施設に交付される「介護職員等処遇改善交付金」をいう(2012年3月末まで)
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阿部 崇

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