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コラム
2011年12月05日
不勉強ながら最近になってジャメヴという言葉があることを知った。既に日本語としても定着したようにみえるデジャヴが「既視感」というのに対して、ジャメヴは「未視感」という言葉があてられている。日頃見慣れている光景や物事がまるで未体験のように感じられるという意味だそうだ。
米国のドットコム(IT)・バブルに牽引される形で日経平均が20000円を記録したのは2000年4月であった。それに相前後するように日本経済の成長性への期待感から数多くの日本株投資信託がスタートした。その代表的なファンドはピーク時に残高が1兆円を超える水準に達し、マスコミからも大きな注目を浴びていた。しかし、それからまもなく米国のバブル崩壊をきっかけに日経平均も下落トレンドに入り、そこに9.11やエンロン・ショックが追い討ちをかけた。結局そのファンドの基準価額【1万口当り、以下同様】はスタート時の水準を超えることなく、最近では4000円前後の水準で推移している。
その後しばらく米国では金融緩和が続いたが、不動産バブルへの警戒感から2004年の半ばから金融引き締めに転じた。それを追うように主要国の政策金利が上昇したことから、いわゆる円キャリートレードが拡大した。これと平仄を合わせるようにブームとなったのが毎月分配型投資信託だ。代表的なファンドはピーク時に残高が5兆円を超え、その分配金の高さと併せて、これまたマスコミから大きな注目を浴びた。しかし、その後はリーマンショック後の円高などの影響を受け、最近では基準価額が5000円を割り込んでいる。
リーマンショック後、先進国経済の沈滞を横目に新興国の経済が躍進した。その新興国の高金利や通貨高、さらには資源価格高が注目を浴びるようになった。そうしたなか急速に残高を拡大した投資信託がある。いわゆる通貨選択型投信だ。ピーク時ではその残高が10兆円に迫ったといわれている。その歴史は凡そ3年ほど遡ることができるが、多額の資金流入があったのは2010年半ばから2011年前半である。こうした資金の個々の運用パフォーマンスを正確に把握することはできないが、10月末のデータで見る限り過去12ヶ月では54%、6ヶ月では92%の投資信託のパフォーマンスがマイナスとなっている。
もう読者はお気づきだろうがこの三つのケースの展開は何となく似通っている。儲かりそうだとの期待感が広まり、新しい資金がまとまって流入する。そして、しばらくすると市場環境が変わり運用成果が悪化する。どれもいつか見た気がするストーリー、そうデジャヴだ。
投資家は誰であれその判断について責任を持たねばならないことはいうまでもない。しかし、それにしてはあまりにも似通った展開が繰り返されることに疑問を感じる人が多いはずだ。そこには一般投資家の責任だけとは言い切れない事情があるのではないだろうか。
最近のデータによればここ3年間の公募投資信託残高は60兆円を少々上回る水準で推移している。この間に残高が10兆円近くの商品が生まれたと言うことから考えると、ざっと見積もっただけでも毎年数千億円が投資信託の販売会社や運用会社に報酬として支払われている計算になる1。日夜売れる投資信託商品の開発に知恵を絞っている関係者には頭が下がるが、提供される商品の盛衰の激しさを見るにつけ、金融の専門知識も限られている一般投資家にとってのメリットをどれほど考えているのだろうかと疑問を感じざるを得ない。
わが国では世帯主が50歳以上の家計で金融資産の8割程度を保有していると言われている2。これから高齢化がさらに進むなかで、高齢者が安心して投資し、保有し続けることの出来る金融商品があることは大変心強いはずである。また、将来の社会保障に不安を抱く若い世代にとっても、信頼できる貯蓄手段は必要不可欠ではないだろうか。ブームを当て込んで特定の商品を集中的に販売するという手法にふと疑問や違和感を抱き立ち止まる、そんなジャメブの瞬間があっても良いのではないだろうか。
1 代表的な通貨選択型投資信託の販売会社手数料が4%であることから、3年間の新規設定額約10兆円に対する手数料の合計額を4000億円(年1300億円強)と推計。また、全公募投資信託の運用管理手数料を残高60兆円に対し1%として年6000億円と推計。
2 高齢者と金融商品の問題についてはニッセイ基礎研究所 ジェロントロジー ジャーナル N0.11-010「複雑化する金融商品と高齢者」を参照。
米国のドットコム(IT)・バブルに牽引される形で日経平均が20000円を記録したのは2000年4月であった。それに相前後するように日本経済の成長性への期待感から数多くの日本株投資信託がスタートした。その代表的なファンドはピーク時に残高が1兆円を超える水準に達し、マスコミからも大きな注目を浴びていた。しかし、それからまもなく米国のバブル崩壊をきっかけに日経平均も下落トレンドに入り、そこに9.11やエンロン・ショックが追い討ちをかけた。結局そのファンドの基準価額【1万口当り、以下同様】はスタート時の水準を超えることなく、最近では4000円前後の水準で推移している。
その後しばらく米国では金融緩和が続いたが、不動産バブルへの警戒感から2004年の半ばから金融引き締めに転じた。それを追うように主要国の政策金利が上昇したことから、いわゆる円キャリートレードが拡大した。これと平仄を合わせるようにブームとなったのが毎月分配型投資信託だ。代表的なファンドはピーク時に残高が5兆円を超え、その分配金の高さと併せて、これまたマスコミから大きな注目を浴びた。しかし、その後はリーマンショック後の円高などの影響を受け、最近では基準価額が5000円を割り込んでいる。
リーマンショック後、先進国経済の沈滞を横目に新興国の経済が躍進した。その新興国の高金利や通貨高、さらには資源価格高が注目を浴びるようになった。そうしたなか急速に残高を拡大した投資信託がある。いわゆる通貨選択型投信だ。ピーク時ではその残高が10兆円に迫ったといわれている。その歴史は凡そ3年ほど遡ることができるが、多額の資金流入があったのは2010年半ばから2011年前半である。こうした資金の個々の運用パフォーマンスを正確に把握することはできないが、10月末のデータで見る限り過去12ヶ月では54%、6ヶ月では92%の投資信託のパフォーマンスがマイナスとなっている。
もう読者はお気づきだろうがこの三つのケースの展開は何となく似通っている。儲かりそうだとの期待感が広まり、新しい資金がまとまって流入する。そして、しばらくすると市場環境が変わり運用成果が悪化する。どれもいつか見た気がするストーリー、そうデジャヴだ。
投資家は誰であれその判断について責任を持たねばならないことはいうまでもない。しかし、それにしてはあまりにも似通った展開が繰り返されることに疑問を感じる人が多いはずだ。そこには一般投資家の責任だけとは言い切れない事情があるのではないだろうか。
最近のデータによればここ3年間の公募投資信託残高は60兆円を少々上回る水準で推移している。この間に残高が10兆円近くの商品が生まれたと言うことから考えると、ざっと見積もっただけでも毎年数千億円が投資信託の販売会社や運用会社に報酬として支払われている計算になる1。日夜売れる投資信託商品の開発に知恵を絞っている関係者には頭が下がるが、提供される商品の盛衰の激しさを見るにつけ、金融の専門知識も限られている一般投資家にとってのメリットをどれほど考えているのだろうかと疑問を感じざるを得ない。
わが国では世帯主が50歳以上の家計で金融資産の8割程度を保有していると言われている2。これから高齢化がさらに進むなかで、高齢者が安心して投資し、保有し続けることの出来る金融商品があることは大変心強いはずである。また、将来の社会保障に不安を抱く若い世代にとっても、信頼できる貯蓄手段は必要不可欠ではないだろうか。ブームを当て込んで特定の商品を集中的に販売するという手法にふと疑問や違和感を抱き立ち止まる、そんなジャメブの瞬間があっても良いのではないだろうか。
1 代表的な通貨選択型投資信託の販売会社手数料が4%であることから、3年間の新規設定額約10兆円に対する手数料の合計額を4000億円(年1300億円強)と推計。また、全公募投資信託の運用管理手数料を残高60兆円に対し1%として年6000億円と推計。
2 高齢者と金融商品の問題についてはニッセイ基礎研究所 ジェロントロジー ジャーナル N0.11-010「複雑化する金融商品と高齢者」を参照。
(2011年12月05日「研究員の眼」)
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