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いま改めて考えるNISAの行方~「貯蓄から投資へ」の課題(その2)~

取締役 前田 俊之
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英国の制度ISA(Individual Savings Account)を参考にわが国のNISAが設計されたことはよく知られている。ISAがスタートした1999年の時点ではNISAと同様に時限のある制度であった。その後、口座数は順調に伸び1,600万を超えた2006年末の時点で制度の恒久化が決定した。こうした経緯からすると、英国においてISAは家計の資産形成において大きな役割を果たしており、NISAにとっても参考となる。ただ、当時の英国で進行していた企業年金制度の崩壊という状況も併せて考えると、この風景は少し違う色彩を帯びるのではないかと筆者は思っている。
このLISA誕生の発端になったと言われているのが「Time for TEE-The unification of pensions and ISAs」というレポートだ。その主張は年金税制の不公平性、非効率性、複雑性に対する批判から始まり、財政負担を軽減するという点からも年金に対する既存の優遇制度を廃止し、ISA型の年金制度への移行が望ましいと結んでいる。当面は年金税制に根本的な変更を行なわないままでのLISA導入となったが、将来的にどのような展開になるかはわからない状態にある。こうした一連の動きは英国の年金税制をめぐる議論の産物という側面があるものの、ISAの役割が変化しているという意味ではわが国のNISAの在り方の議論にも無関係ではない。限られた国の財源や金融機関のリソース配分と言う点から言えば、他の非課税制度、特に確定拠出年金との関係整理もいずれ必要ではないだろうか。
筆者はどちらかと言えばNISAの位置付けに疑問を持ち続けている。その理由はこの制度が始まった経緯とその後の活用状況にある。2012年の「日本再生戦略」を経て、現在でこそNISAは家計における資産形成の中心的役割を与えられているが、そもそもの原点は上場株式等の10%税率の廃止に伴う激変緩和措置の議論にある。そうした影響もありNISAの口座は証券会社などの重要顧客層を中心に開設され、その結果60歳以上の層が口座数、買い付け額のいずれにおいても、全体の50%を超える状態が続いている。また、NISAで購入されている金融商品の中には、依然として高額な購入時手数料や運用管理費用の掛かるものが存在している。諸費用のスリム化が進む確定拠出年金とは対照的だ。家計の資産形成を促進する目的で導入された非課税制度の枠組みに望ましい状況とは言えまい。積立NISAの議論が動きつつあるおり、顧客本位に舵を切った金融庁が国民のためにどのような役割を果たしてゆくのか注目したい。
1 「頑張れ金融庁~「貯蓄から投資へ」の課題(その1)~」2016年11月25日ニッセイ基礎研究所 (http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=54413?site=nli )
2 所定の目的以外でも引き出しは可能だが、その場合にはボーナス(及び付随して生じた利息等)相当額の権利は消滅する。制度の詳細については「英国におけるライフタイムISAと年金税制改革の議論」神山哲也・荻谷亜紀(野村資本市場クオータリー2016Spring)を参照されたい。
(2016年11月30日「研究員の眼」)
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