コラム
2011年09月29日

G20が示す世界経済の空白

櫨(はじ) 浩一

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1.具体策に乏しいG20声明

9月22日にワシントンで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議は、当初予定になかった共同声明を緊急に発表して閉幕した。各国の協調を演出したものの、既存の政策や原則の確認にとどまっており、危機を打開するような具体策には欠ける。
   東日本大震災の混乱からようやく立ち直ろうとしている日本では、会議の前には円高を抑制することに対して各国の理解を得られるのではないかという期待の声も聞かれた。しかし、世界経済にとって喫緊の課題はギリシャなどの財政危機が先進主要国に波及して、大規模な金融危機が起こることを防ぐことにある。日本が期待した円高問題に反応が薄かったのはやむを得ない。


2.危険水域に迫る世界経済

2008年秋のリーマン・ショックによって急速に落ち込んだ世界経済は、各国の財政金融政策によって2009年春頃には持ち直した。しかし、欧州ではギリシャが発端となって財政危機が他の国々にも伝播し、米国経済は家計のバランスシート問題が重荷になって失業問題が一向に改善しない。これまで世界経済を牽引してきた新興国はインフレ抑制のための金融引締めによって、減速が明らかだ。
   米国の住宅バブル崩壊で発生したリーマン・ショックの方が、ギリシャの財政赤字問題よりも問題の規模は大きかっただろう。しかし、リーマン・ショック当時は景気刺激や金融システムの救済のために各国が財政支出を行う余裕があったが、その後の財政状況の悪化によって当時よりも対応能力は低下している。
   景気の悪化は先進諸国の財政再建をより困難なものにし、財政危機の深刻化は金融システムをさらに脆弱なものにして景気の悪化に拍車を掛ける恐れが大きい。世界銀行のゼーリック総裁が言うように、世界経済は危険水域に入りつつある。


3.覇権の空白

現在、世界は欧米や日本などの先進国から巨大な人口を擁する中国インドなどの新興国へと重心が移動しつつある。1930年代の大恐慌は世界経済の中心が欧州から米国へと移行する過程の覇権の空白期に起こった。世界経済が構造変化を遂げる過程は、どうしても不安定になりがちなのかも知れない。
   これまで欧米先進諸国が中心となって問題地域への経済・金融の援助や政策への介入などを行うことで、世界的な経済恐慌は芽のうちに刈り取られてきた。しかし、今や先進国だけでは世界経済の問題を解決できなくなっている。リーマン・ショック後に、先進工業国だけが集まるG7ではなくて、新興国も参加するG20が注目されるようになったのはこのためだが、欧米諸国の危機への対応力が低下する中で、新興国経済は規模は大きくなったが一人当たりの所得は低いので世界経済安定化のために負担することには依然後ろ向きだ。
   こうした中で、日本は海外経済の需要を奪う形での景気回復をはかるべきではないし、外需に依存しようとしても期待外れに終わるだろう。日本は中国に抜かれたとは言うものの、まだ世界第3位の経済大国であり高所得国なのだから、それにふさわしい振る舞いが求められる。日本は自国の都合ばかりを考えるべきではなく、日本経済の復活は困難ではあってもまず日本国内の需要の喚起を考えるべきではないか。

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