- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- G20が示す世界経済の空白
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1.具体策に乏しいG20声明
9月22日にワシントンで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議は、当初予定になかった共同声明を緊急に発表して閉幕した。各国の協調を演出したものの、既存の政策や原則の確認にとどまっており、危機を打開するような具体策には欠ける。
東日本大震災の混乱からようやく立ち直ろうとしている日本では、会議の前には円高を抑制することに対して各国の理解を得られるのではないかという期待の声も聞かれた。しかし、世界経済にとって喫緊の課題はギリシャなどの財政危機が先進主要国に波及して、大規模な金融危機が起こることを防ぐことにある。日本が期待した円高問題に反応が薄かったのはやむを得ない。
2.危険水域に迫る世界経済
2008年秋のリーマン・ショックによって急速に落ち込んだ世界経済は、各国の財政金融政策によって2009年春頃には持ち直した。しかし、欧州ではギリシャが発端となって財政危機が他の国々にも伝播し、米国経済は家計のバランスシート問題が重荷になって失業問題が一向に改善しない。これまで世界経済を牽引してきた新興国はインフレ抑制のための金融引締めによって、減速が明らかだ。
米国の住宅バブル崩壊で発生したリーマン・ショックの方が、ギリシャの財政赤字問題よりも問題の規模は大きかっただろう。しかし、リーマン・ショック当時は景気刺激や金融システムの救済のために各国が財政支出を行う余裕があったが、その後の財政状況の悪化によって当時よりも対応能力は低下している。
景気の悪化は先進諸国の財政再建をより困難なものにし、財政危機の深刻化は金融システムをさらに脆弱なものにして景気の悪化に拍車を掛ける恐れが大きい。世界銀行のゼーリック総裁が言うように、世界経済は危険水域に入りつつある。
3.覇権の空白
現在、世界は欧米や日本などの先進国から巨大な人口を擁する中国インドなどの新興国へと重心が移動しつつある。1930年代の大恐慌は世界経済の中心が欧州から米国へと移行する過程の覇権の空白期に起こった。世界経済が構造変化を遂げる過程は、どうしても不安定になりがちなのかも知れない。
これまで欧米先進諸国が中心となって問題地域への経済・金融の援助や政策への介入などを行うことで、世界的な経済恐慌は芽のうちに刈り取られてきた。しかし、今や先進国だけでは世界経済の問題を解決できなくなっている。リーマン・ショック後に、先進工業国だけが集まるG7ではなくて、新興国も参加するG20が注目されるようになったのはこのためだが、欧米諸国の危機への対応力が低下する中で、新興国経済は規模は大きくなったが一人当たりの所得は低いので世界経済安定化のために負担することには依然後ろ向きだ。
こうした中で、日本は海外経済の需要を奪う形での景気回復をはかるべきではないし、外需に依存しようとしても期待外れに終わるだろう。日本は中国に抜かれたとは言うものの、まだ世界第3位の経済大国であり高所得国なのだから、それにふさわしい振る舞いが求められる。日本は自国の都合ばかりを考えるべきではなく、日本経済の復活は困難ではあってもまず日本国内の需要の喚起を考えるべきではないか。
(2011年09月29日「エコノミストの眼」)
このレポートの関連カテゴリ
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
櫨(はじ) 浩一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2020/03/06 | 不安の時代ー過剰な貯蓄を回避する保険の意義 | 櫨(はじ) 浩一 | 基礎研マンスリー |
2020/02/27 | MMTを考える | 櫨(はじ) 浩一 | 基礎研レポート |
2020/02/07 | 令和の日本経済はどうなるか-経済予測の限界と意義 | 櫨(はじ) 浩一 | 基礎研マンスリー |
2020/01/31 | 不安の時代~過剰な貯蓄を回避する保険の意義~ | 櫨(はじ) 浩一 | エコノミストの眼 |
新着記事
-
2025年04月30日
今週のレポート・コラムまとめ【4/22-4/28発行分】 -
2025年04月28日
リスクアバースの原因-やり直しがきかないとリスクはとれない -
2025年04月28日
欧州委、AppleとMetaに制裁金-Digital Market Act違反で -
2025年04月25日
世界人口の動向と生命保険マーケット-生保マーケットにおける「中国の米国超え」は実現するのか- -
2025年04月25日
年金や貯蓄性保険の可能性を引き出す方策の推進(欧州)-貯蓄投資同盟の構想とEIOPA会長の講演録などから
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【G20が示す世界経済の空白】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
G20が示す世界経済の空白のレポート Topへ