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賦課方式の公的年金では、現役世代の保険料が老齢給付の財源となる。では、老齢給付を使い残した場合はどうか。例えば、65歳から85歳まで毎月20万円の年金を受け取ると、受給額は合計4,800万円になる。その人が亡くなり4,800万円の遺産が残ったとしよう。現在の制度なら配偶者がいないとその4,800万円を子供が相続する。確かに自分の子供に扶養して貰った結果4,800万円が残ったなら、子供に相続させるべきである。しかし、4,800万円を他人の子供達が払ってくれたのならどうだろうか。その人たちに返すのが筋ではないだろうか。そこで年金受給者の遺産のうち、過去の年金受給累計額を相続税の課税対象とし、徴収した相続税を年金制度に返納する仕組みを作ってはどうだろうか。
この仕組み(以下「(世代内・世代間の)連帯相続税」と呼ぶ)には2つの効果がある。第1に世代内の公平性が高まる。もしも、年金額をそのまま相続させると、社会全体の現役世代(他人)から集めた保険料をもとに支払われた年金の剰余が現役世代の中の特定の人(相続人)に集中してしまう。連帯相続税はこの不公平を是正する。第2に使われなかった年金給付を取り戻すことで実質的に給付が適正化され、世代間の不公平感を緩和できる。現状では年金が不要な一部の高齢者にも、現役世代の保険料から年金が支払われている。連帯相続税によって余分な給付が年金制度に返却されれば、現役世代の不公平感や少子化により十分な年金を受け取れないという危惧が軽減されるだろう。
この連帯相続税には、「年金は若いときに保険料を払った当然の権利だ」という反発があろう。しかし、年金は純粋な貯蓄ではなく、長生きした場合の生活水準低下への保険である。保険料支払者が夫婦ならその一方が生きている限り、年金によって一定水準の生活が保障される。保険事故が発生しない場合、例えば夫婦ともに受給開始年齢に達する前に死亡すれば、老齢年金を受け取ることはできない。過去に受給した年金に相当する額以上の遺産を残して死んだ場合も、保険事故が発生しておらず年金を貰う権利がなかったことになる。年金を受給しなくても生活水準を維持できていた計算になるからである。だからこそ、連帯相続税による年金の返却が求められる。もっとも、病気や不時の事故によって、高齢者はいつ貧しくなるか、つまりいつ保険事故が発生するのかわからない。そこで生活保護とは異なり、所得や資産のテストなしに、まず加齢だけを理由に老齢年金を払う。しかし、死亡して年金が不要だったとわかったのなら、その分の返却を求めるのである。
現在の相続税制度では5,000万円に1,000万円×法定相続人を加えた額が基礎控除額とされている。連帯相続税を実現する上でこの現行制度との連続性が求められるのなら、例えば、基礎控除額を過去の(夫婦の)年金受給額合計分だけ引き下げ、それによる税収増を年金目的の連帯相続税としてはどうだろうか(本稿は筆者の個人的意見であり、所属する組織の見解を反映したものではない)。
(2010年10月25日「基礎研マンスリー」)
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