コラム
2010年02月26日

景気回復と財政再建両立の狭い道

櫨(はじ) 浩一

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1.世界に広がる財政問題

ギリシャの財政赤字問題をきっかけに、欧州ではポルトガルやイタリア、スペインなどにも財政赤字問題が飛び火しそうな状況となっている。日本は政府債務残高の名目GDP比が先進諸国の中で最悪の水準にあり、一般会計の来年度の公債発行額が44兆円にものぼると見込まれている。我が国へも財政問題がいつ飛び火してもおかしくない状況である。

   高齢化がさらに進めば、年金、医療、介護などの社会保障費の増加に対応するために、消費税率を少なくとも10%、おそらくは欧州各国並の15%程度に引き上げなくてはならないと見られる。財政再建のためには一日でも早く消費税率を引き上げて財政再建に着手すべきだという意見もある。
   鳩山総理は、現政権の4年間は消費税率を引き上げない方針を表明しているが、菅財務大臣は消費税率引き上げを含む議論を開始することを表明した。政府税制調査会では所得税に焦点を絞った検討が始まるようで、まず所得税の最高税率の引き上げが議論されるとみられている。

2.財政再建を阻む不況という壁

一方景気の現状はと言えば、昨年春頃を底に景気は回復を続けてきたものの、このまま順調に回復を続けるかどうか不透明感がある。これまで世界経済の回復を牽引してきた中国、インドやブラジルでは、インフレの加速やバブルも懸念される状況にあり、金融政策は、これまでの危機対応から引き締め方向に動き出している。

 米国では、消費者信頼感指数の低下など経済指標の悪化もあり、景気回復の道が平坦ではないとの見方が増えている。欧州経済はさらに回復の動きが緩慢だ。

   中国などアジア向け輸出の伸びに牽引されてきた日本経済は、海外経済の回復速度が緩やかになれば、景気回復の勢いが鈍る恐れがある。このような中では、消費税率引き上げなど国民の負担増の議論をすることですら、回復の足を引っ張りかねないという意見もある。

3.景気浮揚と財政再建の手順を示せ

財政再建が急がれることは確かだが、景気回復が不確かな状況で増税に舵を切ることには大きな危険が伴う。実際1997年に橋本内閣が実施した財政構造改革は、アジアの通貨危機発生という不運も重なったが、結局景気が悪化してしまい大規模な財政支出が必要となって財政状況をより一層悪化させる結果に終わっている。

 景気の回復が確実なものとなるまでは大規模な増税など本格的な財政再建路線への転換は難しい。しかし、この一方で日本の財政への不信感が高まって長期金利が上昇するというような事態を回避するために、財政再建への道筋を明確に示す必要がある。景気回復と財政再建を両立させるのは、本当に狭い道で、不況からの脱却、長期的な成長戦略、財政再建といった政策の手順を示さなければ、企業や家計、金融市場の信認は得られない。

   6月までにとりまとめることになっている「中期財政フレーム」で、名目経済成長率を高めに想定してあたかも負担増を回避しながら財政再建が容易にできるかのようなつじつま合わせを行うのでは、金融市場の不信感をあおって長期金利を上昇させることになる恐れが大きい。苦い薬でも良薬だからと国民を説得して飲ませるのが、本当に良い医者のやることだろう。

 不評であっても、いずれは消費税率の大幅な引き上げなど、国民の負担増が避けられないことを、政府は丁寧に説明すべきだ。

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