コラム
2009年10月22日

良い赤字国債と悪い赤字国債

櫨(はじ) 浩一

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1.国債発行額は50兆円規模に

今年度の国債発行額は、当初予算では33兆円だったが、麻生内閣の下で景気対策を実施するための補正予算を組んだため10.8兆円の増額となり現時点では44兆円の計画となっている。民主党の鳩山内閣は先ごろ補正予算の見直しを行い、約3兆円を削減することを決めたが、この分は今年度の国債発行額の削減には使われないだろう。特別会計などのいわゆる埋蔵金の取り崩しを取りやめて、来年度予算の編成の際に国債発行を抑制するのに使われると予想している。

今年度の税収は当初46兆円と見込まれていたが、経済危機の影響で大きく減少し40兆円を割り込む可能性もある。税収不足から国債の増発は不可避の情勢で、今年度の国債発行額は50兆円規模になるとみられる。来年度予算の概算要求が史上最高の95兆円となったことも併せて、財政赤字の拡大を懸念する声が多い。「税収が大幅に落ち込んでいるので、歳出を削減しなくてはならない」という声をよく聞くのだが、これは大きな間違いで、今年度、来年度の国債発行額が巨額となることに対する議論は混乱している。

2.自動安定化機能の認識を

財政には、何もしなくても景気変動を小さくする機能がある。景気が悪化すると法人税や所得税を中心に税収が減少する一方で、失業給付などの支出は増加するので財政赤字が拡大する。何もしなくても、自動的に減税が行われる一方で歳出の増加が起こるので、景気の悪化は緩和される。これは、ビルトインスタビライザーと呼ばれる、景気の自動安定化機能だ。景気の変動で起こる財政赤字の拡大を抑制しようとして、増税を行ったり支出を削ったりすると、景気をさらに悪化させることになる。

これをやって、大失敗を演じたのが大恐慌下の米国だ。フーバー大統領は1932年に均衡予算を策定して、すでに深刻な状況に陥っていた米国経済に追い討ちをかけた。ニューディール政策で大恐慌を克服したように思われているルーズベルト大統領ですら、財政赤字削減のために増税と歳出削減を行って、1938年には厳しい景気後退を招いてしまう。財政赤字が拡大すると、無責任で放漫な財政運営を批判する声が高まり財政赤字の削減が求められるが、財政の持っている景気の自動安定化機能を阻害しないことが重要だ。

3.必要な財政赤字もある

2009年度の税収が当初予算の見積もりを大きく下回ることで赤字国債の増発が余儀なくなる部分は、経済安定化のために必要な財政赤字で、極論すれば「良い赤字国債」だ。税収の減少分に合わせて歳出を削ろうとするのは、大恐慌下の米国の失敗を繰り返すことになり、良くないことである。

問題は恒常的な歳出の増加や減税によって財政赤字が膨らむ部分で、こうした原因で増発されるのは「悪い赤字国債」だ。子供手当てやガソリンの暫定税率廃止に対しては、当初から財源の懸念が指摘されていたが、この部分に対しては選挙の際の約束どおりムダの削減で対応すべきものである。

財政赤字に対しては、なぜ赤字が拡大するのかという原因を見極めて対応を区別するという冷静な判断が求められる。

(参考)「大恐慌のアメリカ」林俊彦、岩波書店1988年。
    「大暴落1929」ジョン・K・ガルブレイス、村井章子訳、日経BP社2008年
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