- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 暮らし >
- 子ども・子育て支援 >
- 幼児教育無償化議論の問題点 - 少子化支援の無償化?その前に・・・
コラム
2009年06月04日
2009年5月18日、文部科学省の有識者研究会が、3歳から5歳児の教育の無償化について中間報告をまとめた。3歳から5歳児の幼児教育費用を無料にしようというもので、対象となるのは、幼稚園と認可保育所、認定こども園(文末注参照)の幼稚園部分とされている。
今回の提言で問題と感じるのは、無償化政策が「少子化対策に効果的」とPRされていることと、無償化の対象から無認可保育所が「保育制度改革の中から検討するのが適当」として外されてしまったこと、の2点である。
まず、少子化支援策としてこの政策が謳われていることには抵抗を感じる。幼児教育無償化の家庭への経済効果としては、幼稚園費用を参考に考えると、子ども一人につき、公立で約23万円、私立で約52万円(平成16年少子化社会白書)である。しかし、もう一人子を産もうか、というほどにはこの金額が経済的支援として強力とはとても思えないのである。
少子化支援策としては効果が薄いこの政策も幼児教育が無償化されることによって、そもそも幼児教育を経済的な理由で受けさせられない親の子も幼児教育が享受できるようになるかもしれないという「幼児教育拡大」の点では評価が出来る。しかし、無償化の対象を限定してしまったことが問題である。
無償化の対象となる子供とならない子供が一体どれくらいいるのかを調べてみると、3歳以上の幼稚園児は167万人(平成20年度学校基本調査)、3歳以上の認可保育所保育児は135万人(平成20年度厚生労働省資料)、無認可保育所3歳-5歳児9万人、事業所内保育施設児童5万人(平成20年3月31日現在厚生労働省資料、事業所内託児所児童年齢不詳)、合計316万人となっている。316万人の子どものうち14万人、4.3%の子どもが無償化の対象から外れる。無償化にすれば幼児教育を積極的に受けさせようという親が増えるのではという考えは評価できるが、無償化対象外となる無認可保育所、事業所内保育施設に預けている親にとっては気の毒な話である。なぜなら認可外保育所を利用している親の過半数(ベビーホテル71.9%、その他の認可外保育施設65.6%)が認可保育所への入所を検討したものの、約半数が「空きがなかった」、約4割が「保育時間が合わなかった」、約3割が「預けたい時期に入れなかった」など、「やむを得ず」無認可保育所を選んでいるのである(平成19年地域児童福祉事業等調査結果)。預かる時間が短く親子行事の多い幼稚園は共働き夫婦にとって預けることが無理なケースが多く、では認可保育所に預けようとしても、上のような事情で預けられないため、やむなく無認可保育所に預けているケースがほとんどなのである。また、事業所内託児所は少子化対策として脚光を浴び、平成20年3月31日厚生労働省調べで3617箇所にまで増えてきているが、この事業所内託児所の恩恵で就業を継続できている親にとっても、今回の無償化は蚊帳の外である。いくら幼児教育を無償にしてあげようといわれても、無認可保育所、事業所内託児所が対象外では、幼児教育無償化の恩恵に預かれない子どもたちが残されてしまい、不公平感が拭えない。
女性の出産退職防止・共働き世帯の増加の観点から少子化対策として無認可保育所、事業所内託児所の重要性が高まってきている中で、今回の無認可保育所、事業所内託児所を検討外とした政策は幼児教育の格差を生み出すのではないかと危惧してしまう。
幼児教育の重要性を主張し、その推進を図ることを目的とするのであれば、まずは、幼保連携を進め、親の就労などの都合でどのような施設に子どもが預けられていても等しく幼児教育を受けられるようにすることが、今の体制のまま無償化を推進するよりも先ではないだろうか。
(参考:認定こども園とは?)
根拠法は2006年10月に施行された「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」。幼稚園は文部科学省が、保育園は厚生労働省が縦割り管轄しているが、認定こども園については文部科学省と厚生労働省とが連携して設置した「幼保連携推進室」が行政の窓口となり、幼保一元化が取り組まれている。実態として、認定こども園は幼児教育と保育を一体的に提供する機能をもった施設となっている。
今回の提言で問題と感じるのは、無償化政策が「少子化対策に効果的」とPRされていることと、無償化の対象から無認可保育所が「保育制度改革の中から検討するのが適当」として外されてしまったこと、の2点である。
まず、少子化支援策としてこの政策が謳われていることには抵抗を感じる。幼児教育無償化の家庭への経済効果としては、幼稚園費用を参考に考えると、子ども一人につき、公立で約23万円、私立で約52万円(平成16年少子化社会白書)である。しかし、もう一人子を産もうか、というほどにはこの金額が経済的支援として強力とはとても思えないのである。
少子化支援策としては効果が薄いこの政策も幼児教育が無償化されることによって、そもそも幼児教育を経済的な理由で受けさせられない親の子も幼児教育が享受できるようになるかもしれないという「幼児教育拡大」の点では評価が出来る。しかし、無償化の対象を限定してしまったことが問題である。
無償化の対象となる子供とならない子供が一体どれくらいいるのかを調べてみると、3歳以上の幼稚園児は167万人(平成20年度学校基本調査)、3歳以上の認可保育所保育児は135万人(平成20年度厚生労働省資料)、無認可保育所3歳-5歳児9万人、事業所内保育施設児童5万人(平成20年3月31日現在厚生労働省資料、事業所内託児所児童年齢不詳)、合計316万人となっている。316万人の子どものうち14万人、4.3%の子どもが無償化の対象から外れる。無償化にすれば幼児教育を積極的に受けさせようという親が増えるのではという考えは評価できるが、無償化対象外となる無認可保育所、事業所内保育施設に預けている親にとっては気の毒な話である。なぜなら認可外保育所を利用している親の過半数(ベビーホテル71.9%、その他の認可外保育施設65.6%)が認可保育所への入所を検討したものの、約半数が「空きがなかった」、約4割が「保育時間が合わなかった」、約3割が「預けたい時期に入れなかった」など、「やむを得ず」無認可保育所を選んでいるのである(平成19年地域児童福祉事業等調査結果)。預かる時間が短く親子行事の多い幼稚園は共働き夫婦にとって預けることが無理なケースが多く、では認可保育所に預けようとしても、上のような事情で預けられないため、やむなく無認可保育所に預けているケースがほとんどなのである。また、事業所内託児所は少子化対策として脚光を浴び、平成20年3月31日厚生労働省調べで3617箇所にまで増えてきているが、この事業所内託児所の恩恵で就業を継続できている親にとっても、今回の無償化は蚊帳の外である。いくら幼児教育を無償にしてあげようといわれても、無認可保育所、事業所内託児所が対象外では、幼児教育無償化の恩恵に預かれない子どもたちが残されてしまい、不公平感が拭えない。
女性の出産退職防止・共働き世帯の増加の観点から少子化対策として無認可保育所、事業所内託児所の重要性が高まってきている中で、今回の無認可保育所、事業所内託児所を検討外とした政策は幼児教育の格差を生み出すのではないかと危惧してしまう。
幼児教育の重要性を主張し、その推進を図ることを目的とするのであれば、まずは、幼保連携を進め、親の就労などの都合でどのような施設に子どもが預けられていても等しく幼児教育を受けられるようにすることが、今の体制のまま無償化を推進するよりも先ではないだろうか。
(参考:認定こども園とは?)
根拠法は2006年10月に施行された「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」。幼稚園は文部科学省が、保育園は厚生労働省が縦割り管轄しているが、認定こども園については文部科学省と厚生労働省とが連携して設置した「幼保連携推進室」が行政の窓口となり、幼保一元化が取り組まれている。実態として、認定こども園は幼児教育と保育を一体的に提供する機能をもった施設となっている。
(2009年06月04日「研究員の眼」)

03-3512-1878
経歴
- プロフィール
1995年:日本生命保険相互会社 入社
1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向
・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
・【こども家庭庁】内閣府特命担当大臣主宰「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024年度)
・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
※都道府県委員職は年度最新順
・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
・【高知県】高知県「元気な未来創造戦略推進委員会 委員」(2024年度)
・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年度)
・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年度)
・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
・【愛媛県法人会連合会】えひめ結婚支援センターアドバイザー委員(2016年度~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)
日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
日本労務学会 会員
日本性差医学・医療学会 会員
日本保険学会 会員
性差医療情報ネットワーク 会員
JADPメンタル心理カウンセラー
JADP上級心理カウンセラー
天野 馨南子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/07 | 若い世代が結婚・子育てに望ましいと思う制度1位は?-理想の夫婦像激変時代の人材確保対策を知る | 天野 馨南子 | 基礎研マンスリー |
2025/02/05 | 【地方創生・人口動態データ速報】2024年 社会減(国内移動純減)都道府県ワーストランキング-日本人と外国人の合計で移動純減は40エリア- | 天野 馨南子 | 基礎研レター |
2025/01/16 | 若い世代が結婚・子育てに望ましいと思う制度1位は?-理想の夫婦像激変時代の人材確保対策を知る | 天野 馨南子 | 研究員の眼 |
2025/01/09 | 2013~23年 都道府県出生減(少子化)ランキング/合計特殊出生率との相関は「なし」 | 天野 馨南子 | 基礎研マンスリー |
新着記事
-
2025年03月21日
東南アジア経済の見通し~景気は堅調維持、米通商政策が下振れリスクに -
2025年03月21日
勤務間インターバル制度は日本に定着するのか?~労働時間の適正化と「働きたい人が働ける環境」のバランスを考える~ -
2025年03月21日
医療DXの現状 -
2025年03月21日
英国雇用関連統計(25年2月)-給与(中央値)伸び率は5.0%まで低下 -
2025年03月21日
宇宙天気現象に関するリスク-太陽フレアなどのピークに入っている今日この頃
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【幼児教育無償化議論の問題点 - 少子化支援の無償化?その前に・・・】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
幼児教育無償化議論の問題点 - 少子化支援の無償化?その前に・・・のレポート Topへ